SHORT U | ナノ

 夢物語8

「あ、れ…?」



頭の下に伸びた腕はいつもと変わらないもので。

チラリと隣を見ると、奇麗な顔した哲也がそこにいた。

えっ!?

なななななななんでえええっ!?



「てっちゃんどうして!?」



ユサユサと身体を揺らして哲也を起こす。




「ん〜なぁに…?」



寝起きのしわがれた声と薄ら開いた瞳が私を捕らえる。




「どしたの?」



逆に吃驚したような顔で私を見ていて…。

ここ、さっきの広臣くんの部屋じゃないよね?

キョロキョロと辺りを見回すけど、やっぱりここには私と哲也しかいないようで。



「出張は?今日何日?」

「出張?来週だけど…。今日月曜日でしょ。どうしたの、ユヅキ。嫌な夢でも見た?」



そう言われて分かった。

広臣くんとのことは、完全に私の夢だったんだって。

ああ、よかった。

そう思いながらも、すごいリアルだったな…って。

え、やばくない?

これ、下…濡れてんじゃない?

そう思ってそっと指をそこに宛てがたう。

でもなんか怖くて。



「てっちゃん私、濡れてる?」

「…え?どこ?」



…そうだよね、そうなるよね。



「なんでもない」



言えるわけもなく起き上がってシャワーを浴びようとした私を、グイって腕を掴まれてベッドの中に引き戻される。



「お前、濡れてんの?」



どうやら気づいたのか、哲也が私を組みふせて指を突っ込まれた。

その瞬間、口端が緩くあがって…



「なんだよ、シたかったなら言ってよ」



言われて哲也のいつもどおりの優しいキスが落ちた。

それに安心して、何だか分からないけど涙が出そうだった。

だからそれに気づかれないように哲也の胸に顔を埋めた。


これでいい。

これでいいんだ。

私の恋人は哲也だけでいい。

夢でよかったけど…―――次どんな顔して広臣くんに会えばいいんだろうね。





その日の夕方、ピロン♪って哲也にLINEが届く。




【すいません、哲也さん。俺、夢でユヅキさん抱いちゃいました☆】




広臣くんの夢に出演したらしい私…

これってやっぱり、夢でいいんだよね…!?





*END*
- 172 -
prev / next