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「消えたい…」
「…え?」
なにごと!?って顔で私を見ているゆきみ。
1年の時、同じくマネージャーを頼まれたゆきみ。
グラウンドで準備をしている最中私がぼやいた小言に視線をこちらに向けた。
「…テストの点数が最悪で…」
「あー…」
なるほどって顔でちょっとだけ安心したように微笑んだ。
「親ともちょっと喧嘩しちゃって…結構色々悪循環で…負の連鎖中です…」
「あっは、ユヅキでもそんなことあんだ!?」
あっけらかんと笑うゆきみは、私と性格も考え方も少々腹黒な部分も似てて、マネージャーになってからすぐに仲良くなった。
適度に手を抜いて、でも熱くて。
そんなゆきみは列記とした直人くんの彼女。
うちのエースナンバーを背負ってるキャプテン直人くんと1年の頃からずっと付き合っている。
私と岩ちゃんとは程度が違う。
はー付き合いたい!
「知ってる?明日の花火大会のジンクス」
ゆきみがちょっと悪戯っぽい笑顔でリスみたいに歯を見せて近寄ってきた。
毎年恒例地元の花火大会。
「ジンクス?」
「うん!花火見ながら告ると叶うって」
そこまで言うとニヤッと口端を緩ませた。
勿論ながらゆきみは私が岩ちゃんを好きなことを知っている。
だから私の告る相手も岩ちゃんだって言っているわけで。
「…今は何やっても無理そうなんだけど」
磨いていた野球ボールを握りしめたまま私は遠くを見つめる。
「まだ落ちてんの?」
ポンって私の頭を一撫でしてクイッと自販機を指さす岩ちゃん。
まだ制服のまま鞄を肩の所で背負っている。
相変わらず爽やかだなーなんて思う私の腕を引っ張って立たされた。
「ゆきみちゃん、ユヅキ借りるよ〜」
それからゆきみに向かってそう言う。
「そのまま持ってっちゃっていいよー」
「了解〜」
ニッコリ微笑むと岩ちゃんは私の手首を掴んだまま校庭の片隅にある自販機へと連れて行く。
「岩ちゃんの奢り?」
私が聞くと「うん」くったくなく笑った。
暑い夏日にも負けないくらいの笑みで。
「さっきの続きだけど…。これ明日一緒に行かねぇ?」
だけどここにきた目的がジュースじゃなかったと思えたのは、自販機の横にある掲示板に貼ってある明日の花火大会のチラシを指さしてそう言ったから。
思わず動揺してか、ポカリを買うつもりがコーラのボトルを押しちゃって。
ガコンと音を立ててコーラが落ちてきた。
「ああああああ間違えた!」
叫びのような私の声に岩ちゃんが苦笑いを零す。
「いやいやあのさ、今俺結構ドキドキしながら誘ったんだけど、コーラに完全に持ってかれてるよね…」
「だって、コーラ炭酸なんだもん」
本当は恥ずかしくて、でも嬉しくてどう答えたらいいのか分からないから。
でも岩ちゃんはそんな私すらお見通しかもしれなくて。
コーラを私の手から奪い取ると、小銭を入れてポカリをドンッと拳で押した。
「はい、交換!」
私にポカリを差し出した。
何か、こんな些細なことでもめちゃくちゃ嬉しくて。
もしかしたらこの負のスパイラスから岩ちゃんなら救いだしてくれるのかも…なんて淡い期待を持って「行く…」小さく答えたんだ。
「浴衣着てきて!」
「…うん」
「約束だから」
スッと岩ちゃんの細くて奇麗な指を私の胸の前に出されて。
ゆっくりとその指に自分の小指を絡めると反対の手でフワっとほんの一瞬抱きしめられた。
ドキっとした瞬間、岩ちゃんの温もりが離れていって…
「行くよ」
そのまま部室に向う岩ちゃんと別れてグラウンドに戻った。