SHORT U | ナノ

 オンリーワン5

「いや、冗談ですよね?」



本気で知らないって顔だった。

正規の彼女はちゃんとみんな知ってるけど、私の存在は誰一人知らないんだって。



「だってあの二人結婚前提ですよ!何かの間違いじゃないんですか?」



逆にヒートアップしてくる今市くんに、私の気持ちは驚くぐらい冷静だった。

どうして岩ちゃんのこと好きになっちゃったんだろう…。

もっと他にいなかった?

私が回りが見えてなかったんじゃないの?



「えみ…」



敬浩が私を見ている。

何だか最近弱くて困る。

大人になればなるほど、今まで見えなかった、通り過ぎていたことにつまづくようになってしまう。



「今市くんのせいじゃないけど、事実なんだ。申し訳ないけど岩田呼んでくれねぇ?」



敬浩がそう言った時だった。

背中を向けて座っている私に気づくことなく「あれ、隆二さん?」後ろから聞こえた岩ちゃんの声。

私が間違えるわけのない、岩ちゃんの声に顔があげられない。



「岩ちゃん、何して…」

「何って幸子と飯…」



言葉が止まった瞬間、敬浩が立ちあがる。

やめて、お願い、やめて…

そう言いたいけど今ここで私が振り返ったら全部彼女にバレちゃう。



「たかぼーだめっ!」



だから私を通り越してゆきみが敬浩の方に行ったけど、ガシャン!って音と共に、私の足元に岩ちゃんがぶっ倒れた。



「剛典!!!なにすんのよっ!?」



慌てて彼女が敬浩にそう言う。



「幸子、いいから…」



そう言った岩ちゃんは横からジッと私を見つめる。



「お前最低だな。せめて謝れよ、今ここで…」



吐き捨てるような低い敬浩の声に岩ちゃんがボソっと呟く。



「俺の気持ちは変わんない」

「剛典なんのこと?何なの、この人達!」



彼女が怪訝に聞くけど、岩ちゃんは殴られた口端を手の甲で拭う。

その間もジッと私に視線を向けていて。



「勝手だよ岩田くん。ずるいよ自分だけ。だったら全部捨ててよ?それができなきゃもう二度と逢わせない。それが友達としての私の意見…」



ゆきみの言葉に肩が震える。

泣いちゃダメって思っていても涙は溢れてきて。



「甘いよゆきみ。こいつに全部捨てる勇気もクソもねぇ。女一人幸せにできねぇのに偉そうな口叩くんじゃねぇ。俺が全部受け止めて幸せにする。今すぐ見納めだ!!」



バンって机を思いっきり叩く敬浩にビクっとした。

こんなに剣幕で怒る敬浩、後にも先にも初めてだよ。

いつもふざけてるのに、こんな時だけ真剣になってくれるなんてそれこそずるい。



「あ、違う違う、何でもないから!」



彼女なのか、私の方を見ようとしたのかてっちゃんがそう言って。

ジッと私を見ていた岩ちゃんは、最後の最後まで愛してるって言うことはなかった。




岩ちゃんと彼女がいなくなったここ。




「何かよく分かんないけど、岩田がすいませんでした」



私に向って頭をさげる今市くん。



「隆二くんのせいじゃないから」

「はい、でも…」



フォローするゆきみに困ったように眉毛を下げて今市くんが微笑む。



「かっこいいね、隆二くんも。JSB社ってイケメン揃い?私にも誰か紹介してくれないかな?」

「…コノヤロウ!」



てっちゃんにバコンって叩かれてゆきみが笑う。

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