SHORT U | ナノ

 オンリーワン3

【えみ悪い、しばらく逢えない】



週明け、岩ちゃんからそんなLINEがきていた。

え?

何かあったの?

心臓が矢で突き刺されたみたいに痛くて息があがる。

たかだかこんな文字を見ただけで私の心は岩ちゃん一色で。



「えみ、どうかした?」



聞こえた声に顔をあげると、同期のゆきみが心配そうに私を見ていた。



「熱ある?顔色悪いよ」

「あ、ゆきみ…」



…言えない。

分かってて二股かけられてるのに別れられない年下の彼氏に縋ってるなんて、ゆきみには言えない。

知られたくない、こんな私。

背中を冷や汗がつたっていく。

目の前が真っ暗になって視界が狭まる…



「えみっ!?えみっ!?大丈夫っ!?」



遠ざかっていくゆきみの声に私は最後の力をふり絞って言葉を繋いだ。

届いたかどうかは分からないけど…。


ごめんね、こんな私で。







パチっと目を開けるとそこは会社の医務室だった。

カーテンが閉められているけどうっすらと人がいるのが分かる。



「絶対ぇ許さねぇ岩田…」

「たかぼー怒っちゃダメ!えみだって分かってるはずだもん。だから倒れちゃったんだよ」

「なんだよそれ、ゆきみに何が分かるの?」

「分かるの!えみと似てるもん、私。頭ごなしに攻めるつもりならここから出てってよ」

「まぁまぁゆきみ落ち着けって。そんなに興奮しないの」

「てっちゃん!だってたかぼーが…」

「うんうん。敬浩くんも落ち着いてね」

「…分かってる。けど俺は許せねぇ。大事な女が傷つけられてんの知って黙って見過ごすなんて無理だ」

「もうさ、敬浩くんが早く好きだって言わないからじゃないの?元はといえば…」

「てっちゃんに1票。たかぼーがノロノロしてるからえみが岩田の毒牙にかかったんだよ、きっと。言っとくけど入社当時はえみ、絶対たかぼーのこと好きだったはず!」

「…昔の話だろ?」

「イケメンはいつの時代も付き合える!」

「ゆきみ、ゆきみ、意味分かんないから。とりあえず、あっちの今市呼びだしたから、岩田のこと今夜ちゃんと吐かせようぜ」

「てっちゃん楽しんでる?」

「まさか!俺はいつでも大好きなえみの幸せを願ってるよ」

「…あのさ、俺に話させてよ、哲也くんもゆきみも。ちゃんと冷静に話すから。タイミングが遅くても何でも、今、えみが大事なんだ俺」

「たかぼー…うん」



チラっとゆきみがカーテンの隙間からこっちを覗いたら思いっきり目が合った。



「えみ!起きたの?大丈夫?」



ゆきみがカーテンを退かして中に入ってきた。

そこにはてっちゃんも増えていて。



「寝不足と疲労だって。言っとくけど私ちょっと怒ってるよ!」

「え?」

「えみの悪い癖よ、辛いこと全部一人で抱え込むの!いっつも人の心配ばっかりして自分は平気そうな顔してさ。もう一人で悩むのは無し!私達が一緒に考えるから、ね?」



ベッドに腰かけてゆきみが優しく髪を撫でてくれる。

ツーンと鼻の奥が痛くてジワリと視界がぼやける。

ずっと一人で苦しかった。

岩ちゃんを好きになればなるほど苦しくて、でもこんなこと誰にも言えなくて。

いけないことしてるって頭では分かってても、岩ちゃんから呼び出されたら拒否なんてできなかった。


――こんな私を抱きしめて愛してくれるのは岩ちゃんだけだから。


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