▼ 似たもの同士3
「待って、今の無し!今の無意識で、だから違うの!」
抱きしめられて慌てて自分が気持ちをペラってしまったことに気づく。
好きか?って聞かれて否定したくないから何も答えなかったのに、もう一度聞かれて素直に答えちゃうなんて馬鹿!
もー私のばかばか!
「無意識なら尚更本心ですよね?よかったー」
さらに強く岩ちゃんに抱きしめられる。
スーツからほんのり香る香水はシトラス系で、爽やかな岩ちゃんによくあってる。
うう、かっこいい。
ダメだ、ダメだ、こんなんじゃ。
敬浩の女でいた方がよかった。
「岩ちゃん聞いて!」
「ん?」
「岩ちゃんみたいな完璧なイケメンと付き合ったことないから私、自分がどうなるか分からないの。料理だってそんな作れないし、部屋も一週間したら汚くなっちゃう。洗濯もためるし酒癖悪いし寝相もすごい悪いの!鼻悪いからイビキもかくし穴のあいたパンツも家では履いてるの!ね、幻滅でしょ?こんな女と付き合ってるなんて言ったら岩ちゃんの高感度が下がっちゃうでしょ!それはやっぱりよくないと思うの!だから…」
ごめんなさいって言う前に岩ちゃんの「言いたいことはそれだけ?」って聞こえて、言葉を止めた。
私を真剣に見つめる岩ちゃんはスーツのポケットから有り得ないものを取り出した。
「へ?」
「今朝の食いかけ!食べようと思って忘れてた!」
出てきたのは食パンのカケラでさすがに吃驚するわけで。
ニカッて笑った岩ちゃんはそれをパクっと食べた。
「分かんないっしょ、言わなきゃ!俺にとってはユヅキさんが一番です。綺麗だと思うのはユヅキさんだけです。誕生日、一緒に過ごして貰えませんか?」
ダメだ、勝てない。
何もついていない食パンを食べて嬉しそうに笑う岩ちゃんから目が離せない。
素の私を受け入れてくれる人なんていないと思ってたのに。
「パン美味しい?」
「あんま!味ねぇもん!」
「ジャムぐらい塗ってあげるよ、今度は」
「やった!」
「買い物して帰ろうか?」
スッと岩ちゃんの前に手を差し出すとそれを迷うことなく握った。
「うん。一緒に」
「うん、一緒にね」
王子様だと思っていた岩ちゃんは、その見た目とは裏腹にすごい性格で。
付き合っても長く続かないって噂を前に聞いたことがある。
思い浮かべるイメージとあきらかにかけ離れたことを平気でするからだろうか?
確かに第一印象だったりイメージはある。
でもそれを覆す素の部分を見せられる相手は指折り数える程度だって思う。
その相手に私を選んでくれたことが嬉しい。
そしてきっと私達は、似たもの同士だと思う。
だからきっと色んな意味でうまくいく、はず。
「お誕生日おめでとう、岩ちゃん!」
「たかのりって呼んでよユヅキさん。俺ベッドの上で岩ちゃんとか言われたくない」
「たかのり、たかのり、たかのり!」
「無理やりっぽくない?いいけど、ここ気持ちぃでしょ?」
「ンッ…待って、」
「だーめ!指でイかせる」
「やっやっ、待って、」
「ユヅキ……好きだよ」
「ハァ…ずるい」
やっぱり私、剛典に勝てそうもない。
*END*