SHORT U | ナノ

 あたしの夢2

――その日を境に、あたしとケンチくんのやり取りが始まったんだ。



毎日少しづつ物語を進めていくあたしに、毎回読んだら感想をくれるケンチくん。



【今日の更新やべぇよ!山田腹立つけど、こーいうキャラは必要!】

【りゅーじ、中坊のくせに色気づいてない?】

【哲也とゆきみはなんか見ててほっこりする】

【ナオトちょっとかっこいいね!】

【アキラとこはる、ラブの予感?】



いつしかあたしの中はケンチくんでいっぱいになっていたんだ。

ケンチくんが欲しい言葉をくれるから……そんなんじゃなくて、ただ純粋に嬉しかった。

勿論プロでも何でもない。

でも、あたしが一生懸命書いた文章を一つ一つくみ取ってくれている気がして。

もしかしたら、ケンチくんの思う展開じゃないこともあるかもしれない。

これは違うんじゃないの?って。

でもそれを今は言わないでいてくれるのがケンチくんの優しさなんだって思えた。

ケンチくんの言葉一つ一つが、あたしに優しくて温かい印象を受けたから。



そんなある日、それは終わりを迎えることになるなんて。


朝早く行ってノートを開いたあたしは思わず固まってしまう。

そこには1枚写真が挟まっていて。

震える手でそれをひっくり返すとそこにはバイクの前にしゃがんでこっちを見てる男の子が。



【これ俺!ハルカちゃんの写真も見たい!】



「うそっ……かっこいい!!」



飛び出た言葉は感情モロだし。

だって、こんなに素敵な人だとは。

いや、分かってたけど、かっこいい人なんだろうって。



「え、何か言った?愛沢……」



久しぶりにクラスの女子に話しかけられてビクっとしたもののノートを抱きしめて「な、なんでもないっ」慌てて向きを変えた。


写真なんて見せらんない。

こんなヲタク女子なあたし、ケンチくんに知られたくない。

無理だ、絶対無理だ。

幻滅して終わりだ。



自分を見せる勇気がないあたしは、その日からノートを家に持ち帰り続けた。


ケンチくんがどんな気持ちで待ってくれていたのかも分かるわけもなく。

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