▼ 優しい15分1
定時間際、こっそり誰にも分からないように私の席の後ろからポンっと肩を叩くその人、ナオトさん。
「ユヅキちゃん、大丈夫?」
私を見下ろすナオトさんの口から出た言葉にキョトンとして見上げる。
「へ?」
大丈夫って言った?
「体調悪いでしょ今日ずーっと…」
少し眉毛を下げて優しい言葉をくれるナオトさんに、胸がギュッと包み込まれたような気持ちになった。
だって今日は一日中お腹の調子が悪くてトイレばっかり行ってたの、もしかしてバレてた?
一気に恥ずかしくなって苦笑いを返す。
「何か顔も赤いし、だるそうに見えて。ごめんね早く気づいてあげらんなくて」
ポンって私の頭に手を乗せて微笑んだ。
……ずるい、そんな言葉。
内緒にしてる気持ちが溢れてしまいそうになるのをグッと堪えた。
みんなに優しいナオトさんだから勘違いしちゃ自分が惨めになるだけだよね。
「あの…少しお腹の調子が悪くて…」
「少しじゃないでしょ?」
「……はい、すいません」
「なんで謝るの?気付けなかった俺が悪いよ、本当にごめんね。もう今更だけどあがっていいよ!」
「え?」
17時定時の15分前だった。
あと15分ぐらい頑張れます!って言いたい所だけど、わざわざみんなに内緒で言いに来てくれたナオトさんの優しさにのっかってもいいかな。
弱ってるせいか、自分にも甘くなる。
「いんですか?」
「うん。いっぱい打ち込みさせちゃってごめんね。俺明日なら手開くから変わりに打つからさ!」
「あは、でも一応今日の分はギリギリ終わったんで」
「マジか!早いなぁ相変わらず。俺も見習わないとダメだね。よし帰ろう」
ナオトさんが私の腕を取って立たせてくれる。