SHORT U | ナノ

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「あっ私先に行ってますね」

「うん、ごめんね」


そう言うよっくんにペコっと頭を下げて、ゆきみちゃんが気を使ってフロアから出て行った。

デスクに寄りかかって私を見つめるよっくん。

ここの所仕事が忙しいのもあって、私の気持ちも定まっていなかったこともあり、よっくんと顔を合わせない日が続いていた。

久しぶりによっくんの顔ちゃんと見た。


「どうしたの?」


優しいよっくんの声にまた泣きそうになる。

今まで何となくこの関係を壊したくなくて、自分の気持ちを素直に伝えられずにいた。

よっくんもそんな私にあえてなのか、何も聞いたりしない。

聞いたりしないけど…―――「何かあった?」…ちゃんと私のこと見ててくれてるんだって。

嬉しいんだ。


「…どうして今なの?」

「え?」

「なんで今気づくの…?」


面倒くさいよね、こんな泣いてばかりの私。

呆れちゃうよね、こんな女。

でも好きなの。

ただただ、よっくんのことが大好きでどうしようもないの。

ポンってよっくんの大きな手が私の頭に触れる。


「それは、見てるからでしょう、ユヅキのこと」


温かいその声にさえ、よっくんの人柄の良さが出ていて。

嫌いな所なんて一つも見つけられないくらいよっくんが好き。


「うう…もう…」

「ごめんね、引退のこと…。言わなかったからユヅキのこと嫌いとかそんなんじゃなくて…泣いちゃうかな〜って思って…」


泣いたよ、すごく。


「泣かれるのが面倒なわけじゃないよ。できればユヅキにはずっと笑ってて欲しいから。俺のせいでハッピーな気持ちがなくなっちゃうと思ったら、どうしても言えなかった」


困ったようなよっくんの顔にやっぱり涙がこみ上げてくる。

ハッピーはよっくんの合言葉みたいなもので、だから分かる。


「うん…分かる。よっくんの気持ち…」

「うん。でもユヅキには応援してて貰いたい…。傍でずっと笑ってて欲しいんだ」


傍でずっと…なんて軽々しく言っていいの?

よっくんを見上げると、優しい笑みを浮かべていて。


「そろそろみんなに言ってもいいかな…俺達のこと」


ほんの少し緊張したよっくんの表情が私を見下ろしている。



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