SHORT U | ナノ

 始まりはキス6

2月14日。

聖バレンタインデー。

一年に一度だけ女の方から想いを伝える日。

この日にかけている生徒は思いの外沢山いて。

あたしは女々しいながらも健ちゃん先輩へ渡すつもりのないチョコを鞄に忍ばせていた。


どんどん放課後になるに連れて、カップル率が高くなっていく。

今日しかない!と思いながらも、今一歩踏み出せずにいる自分。

こんな時、いつも健ちゃん先輩は「ユヅキちゃんカラオケ行かへん?」って誘いに来てくれてよね。

後ろに臣先輩と隆二先輩を引き連れて。

ハァー。

止まらない溜息に頬杖をついて校庭を見下ろす。



「岩田くん、呼ばれてるよ!」



珍しく教室にいた岩田くん。

この日ばかりは岩田くんも忙しくて、休み時間の度に同級生から先輩までもが岩田くん目当てにチョコを持ってきていた。

絶賛禁断の恋中の岩田くんだから、てっきり断るものかと思っていたんだけど、ちゃんと受け取ってるのがいがいだった。

大きな袋を持って戻ってきた岩田くんに「ちゃんと受け取ると思わなかった」そう声をかけると真面目な顔して答えたんだ。



「ここに詰まってる気持ちは有難いじゃん。応えてはやれねぇけど、想うのは自由だし、そーいうのってこれからの勇気にも繋がるんじゃないの?今日渡せるか渡せないかって、結構でかいと思うよ」



胸に真っ直ぐに突き刺さった気がした。

ここでモヤモヤしてるあたしは、今日渡せなかったら一生後悔する!って。



「ありがとう!」



そう言って立ち上がったあたしは鞄の中に入った包みを持って健ちゃん先輩の教室へ向かおうとしたんだ。

微笑む岩田くんにペコっと頭をさげて前を向いた瞬間、うちのクラスにやってきたのは、ゆきみ先輩。



「岩ちゃんはーい、これ!」



短いスカートと真っ赤なふわふわの髪。

ピンク色のグロスとバサバサのまつ毛。

今時って感じのゆきみ先輩が、岩田くんにチョコを差し出したんだ。

健ちゃん先輩のついで!?



「ゆきみちゃんこれ義理?」

「うん!そりゃ」

「じゃあいらねぇ。俺ゆきみちゃんの本命チョコが欲しい…」



えっ!?

岩田くんの禁断の恋って、ゆきみ先輩!?

健ちゃん先輩の彼女だったの!?

……どーしよう。




「いやいや岩ちゃんそれダメだから。こいつ俺のね、俺の!」



やって来たのは赤上履きの3年。

今度は誰よ!?
- 139 -
prev / next