▼ 主導権5
目を閉じて感じる大樹の息使い…。
カチカチって時計の秒針音に混ざって重なり合う私達のリップ音。
これって、キスだよね?
拒むことなんて簡単なのかもしれないけど、私は大樹のしたいまま、そのままキスを受け入れた。
唇を離した私と見つめ合う。
「…彼女いるのに、なんで?」
「惚れました、たった今!!俺がユヅキさんを笑顔にさせますっ!!」
勢いよくそう言ってくれるけど。
「そんなこと聞いてない。彼女どーすんの?」
「えっ、す、すいません!勿論別れます!そしたら僕の彼女になってくれませんか?」
「なるわけないでしょ」
「なんでっ!?」
「なんでじゃない!!そもそもたった今惚れたってなによ?」
「え、言葉の通りですけど。ユヅキさんのこと好きになったってことです。他に何か理由づけした方が納得してくれますか?」
…こいつ。
「まだ別れてもいない彼女がいるのに、他の女にキスする男なんて信用できるわけないよ」
「………」
シュンって俯く大樹。
今の今までランランとしていたのに、急に借りてきた猫みたいに大人しくなった。
やばい、さすがに言いすぎた?
「ご…
「それって、意識してくれたってことですよね?」
「…は?」
目の前で嬉しそうに口端を緩めている大樹に、一瞬にして黒い影が見えた…
「だってユヅキさん、キス受け入れたじゃないですか?満更でもなかったってことですよね?」
「自分で言う?そーいうこと!」
「事実でしょ?」
そう言って又チュって触れるだけのキスを落とす。
「今日彼女に会って別れてきます。そしたら僕の彼女になってくれますよね?」
「な、ならないわよ」
「またまたぁ〜!」
「ちょっ…
ダメだ、流される…。
纏わりつく大樹の匂いと温もりに身体が強烈に反応してる。
年下だからって、ちょっと可愛いからって…―――男丸出しじゃん!!
何度も角度を変えてされるキス。
でも舌を入れてこないから正直なところ、物足りない…。
やだ完全にペース掴まれてる?
こんなの私じゃない。
「離してっ…」
「は〜い」
すんなり離す大樹に、軽い殺意すら覚えた。
イライラする。
「…何で離すの?」
「え?」
「適当な気持ちじゃないなら簡単に離さないでよっ!」
「うわ、すいませんっ!」
ガバって大樹に抱きしめられる。
慌てて抱きしめたものの、ギュってしてくれるその温もりにドキドキする。
「信じらんない、こんな年下…」
「あはは、いいっすそれでも。俺結構しつこいんで覚悟してくださいよ?」
「主導権は私が握るよ?」
「いいっすよ。ユヅキさん好みの男になってみせますんで!そしたらちゃんと抱かせてくださいね?」
「…そーいうのは言葉にしなくていいから」
「ダメっすよ。ちゃんと気持ちを込めて伝える言葉だから、伝わるもんです。ユヅキさん、佐藤くんじゃなくて、大樹って呼んで?」
「…―――大樹」
「ユヅキ…キスして?」
主導権は私が握っているはずなのに、大樹に顔を寄せる自分がそこにいたなんて…―――。
「お誕生日おめでとう、大樹」
*END*