SHORT U | ナノ

 主導権5

目を閉じて感じる大樹の息使い…。

カチカチって時計の秒針音に混ざって重なり合う私達のリップ音。


これって、キスだよね?

拒むことなんて簡単なのかもしれないけど、私は大樹のしたいまま、そのままキスを受け入れた。

唇を離した私と見つめ合う。





「…彼女いるのに、なんで?」

「惚れました、たった今!!俺がユヅキさんを笑顔にさせますっ!!」



勢いよくそう言ってくれるけど。



「そんなこと聞いてない。彼女どーすんの?」

「えっ、す、すいません!勿論別れます!そしたら僕の彼女になってくれませんか?」

「なるわけないでしょ」

「なんでっ!?」

「なんでじゃない!!そもそもたった今惚れたってなによ?」

「え、言葉の通りですけど。ユヅキさんのこと好きになったってことです。他に何か理由づけした方が納得してくれますか?」



…こいつ。



「まだ別れてもいない彼女がいるのに、他の女にキスする男なんて信用できるわけないよ」

「………」



シュンって俯く大樹。

今の今までランランとしていたのに、急に借りてきた猫みたいに大人しくなった。

やばい、さすがに言いすぎた?



「ご…
「それって、意識してくれたってことですよね?」

「…は?」



目の前で嬉しそうに口端を緩めている大樹に、一瞬にして黒い影が見えた…



「だってユヅキさん、キス受け入れたじゃないですか?満更でもなかったってことですよね?」

「自分で言う?そーいうこと!」

「事実でしょ?」



そう言って又チュって触れるだけのキスを落とす。



「今日彼女に会って別れてきます。そしたら僕の彼女になってくれますよね?」

「な、ならないわよ」

「またまたぁ〜!」

「ちょっ…



ダメだ、流される…。

纏わりつく大樹の匂いと温もりに身体が強烈に反応してる。

年下だからって、ちょっと可愛いからって…―――男丸出しじゃん!!


何度も角度を変えてされるキス。

でも舌を入れてこないから正直なところ、物足りない…。

やだ完全にペース掴まれてる?

こんなの私じゃない。



「離してっ…」

「は〜い」



すんなり離す大樹に、軽い殺意すら覚えた。

イライラする。



「…何で離すの?」

「え?」

「適当な気持ちじゃないなら簡単に離さないでよっ!」

「うわ、すいませんっ!」



ガバって大樹に抱きしめられる。

慌てて抱きしめたものの、ギュってしてくれるその温もりにドキドキする。



「信じらんない、こんな年下…」

「あはは、いいっすそれでも。俺結構しつこいんで覚悟してくださいよ?」

「主導権は私が握るよ?」

「いいっすよ。ユヅキさん好みの男になってみせますんで!そしたらちゃんと抱かせてくださいね?」

「…そーいうのは言葉にしなくていいから」

「ダメっすよ。ちゃんと気持ちを込めて伝える言葉だから、伝わるもんです。ユヅキさん、佐藤くんじゃなくて、大樹って呼んで?」

「…―――大樹」

「ユヅキ…キスして?」



主導権は私が握っているはずなのに、大樹に顔を寄せる自分がそこにいたなんて…―――。




「お誕生日おめでとう、大樹」





*END*
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