▼ 主導権4
始発まであと数十分て所で漸くシール貼りが終わった。
…疲れた。
眠たそうな顔をしている大樹をあまり見ないようにして私達は帰り支度を始める。
「一ノ瀬さん」
「…なに?」
「僕…いい加減なこと言ったんじゃありません。でも気を悪くさせちゃったなら謝ります…その、何がダメでした?」
できれば私も後輩と仕事をする上で、くだらないプライベートな話題で気まずくなんてなりたくない。
でも、人間にはどうしても触れられたくない気持ちがあるんじゃないだろうか。
そう思うのはもしかしたら私だけ?なのかもしれないけれど。
逆に、どうしても触れなきゃダメだろ?って言う気持ちもある気がする。
でも人間なんていつだって自分勝手で自分が可愛い生き物。
こうなればいい…って願望ばっかり先走ってしまって、結局肝心な穴埋めなんてできないのかもしれない。
そうやって今まで生きてきた。
自分を守ることで精一杯で、人の気持ちの奥底まで見えてないことの方が多いんじゃないかって。
――私を真っ直ぐに見つめる年下の大樹。
この子に言って何かが変わる?
私の寂しさなんて埋めてはくれないってはなっから諦めている。
でも…―――何がダメか?…そう聞かれたのは初めてだった。
いつだって寂しい気持ちと隣り合わせで生きている女を、心から気遣ってくれたのは、大樹だけだった。
…どうしよう、ちょっと泣きそう。
潤む瞳を瞬きさせる私を、それでもジッと見つめて待っててくれている。
「私が彼女だったら嬉しい?」
「え?」
目を真ん丸くさせて私を見る大樹。
その手をそっと握ると、大きく瞳を揺らす。
「言ったよね、さっき。一ノ瀬さんが彼女だったらよかったのに…って…」
「はい、言いました」
「じゃあ彼女にして?」
「…え、え…」
若干後退りしそうな大樹に、クスって微笑む。
「ごめん今のは冗談。でもそうやって言ってくれた人は過去にもいたけど、言うだけで誰も私を彼女にした人なんていなかった。まぁ当たり前だろうけど。だからそういう誤解を招く言葉を言われて悲しかっただけ。佐藤くんもあの人達と一緒だって…」
そこまで言い切って私は大樹の手を離した。
冷たい空気にさらされて心まで冷たくなった気分さえする。
「意地悪するつもりじゃなかったのに、ごめんね。大人気ないよね、私…こんなだから誰からも好かれなっ…
続きは言葉にならなかった。
だってどう考えたっておかしい。
何で私、大樹に抱きしめられてるの?
「…ユヅキさん」
なに?
どういうつもり?
「同情とか一番惨めだって分からない?佐藤く…
―――また遮られた。