▼ 主導権1
第一印象、すっごい真面目。
でもその実態は、負けず嫌いな頑張り屋。
それに気づくまで、そんなに時間はかからなかった。
「一ノ瀬これどーなってんだ!?」
部長の怒鳴り声が響いたのは、定時間際の夕方。
まさか自分が怒られるなんて思いもしない私はキョトンとした顔で「何のことですか?」部長のデスクに駆け寄った。
バサッと出来立ての雑誌をデスクに置かれて指差した場所には、イベント日時が載っていて…
「えっ!うそっ」
急遽日時変更のあったそのイベントが、変更前の日付でデカデカと載っていたんだ。
なんで、だって変更の連絡入れたはず。
頭の中で記憶を思い起こして…あ。
大樹にお願いしたんだった。
あの馬鹿、確認しなかったの?
様子に気づいたのか、慌ててすっ飛んできた新社会人の、佐藤大樹。
「すいません、自分の確認ミスです!」
私の隣で深々と頭を下げる大樹。
でもこれ、よーするに私の責任だよね。
「いえ。私のミスです。申し訳ありませんでした。すぐに訂正用シールで対応します」
「明日までにできるんだろうな?」
「勿論です!必ず50000部仕上げます!」
ぺこっと頭を下げて私は部長の前から自分のデスクに戻った。
「あの、一ノ瀬さん、すいませんでした。自分のせいで…」
泣きそうな顔で頭を下げる大樹。
この子のミスなんだろうけど、この子の責任じゃない。
ポンポンって頭を撫でると、顔をあげてジッと私を見つめる。
「ちゃんと最終確認しなかった私が悪いのよ、こーいうのは。少し残業できる?」
「勿論っす!最後までやらせてくださいっ!」
「よかった。じゃあシールの用紙を大量に買ってきて欲しいの。社内にある分で先に印刷してるから!」
「分かりました!」
もう一度深く頭を下げると、コートを羽織って早々に出て行った。