▼ 愛を教えます4
「んっ…」
甘い声に意識が覚めていく。
温かく繋がっている指にキュッと力が入った。
あ、おれ…寝ちゃったんだあの後。
パチっと目を開けると俺を見ているユヅキさん。
吃驚した様子すらなくてそっと微笑んでくれた。
「隆二くん…おはよう」
「ユヅキさん、おはよう」
髪を撫でると口端を更に緩めた。
「何もしなかったんだ、真面目だなぁ隆二くん……
」
そう言ったユヅキさんは泣きそうで。
「まだアキラさんが好き?」
「…隆二くん?」
「アキラさんちゃんとユヅキさんの寂しい気持ち分かってたよ」
「……え」
「諦めちゃっていいの?」
「隆二くん…」
「諦めないで、もう一度頑張ってみたら?」
「……でも」
「大丈夫。もう一回頑張ってダメだったら、その傷もまるごと全部俺が一緒に背負う。……好きだよユヅキさんが。ずっと愛してた…」
どうかユヅキさんに伝わって欲しいと。
どうかユヅキさんに元気を与えられますようにと。
願わくば、ユヅキさんの思う幸せを……
一週間後。
ユヅキさんが元気よく俺の前に現れた。
眩しいくらいの笑顔に、俺まで嬉しくなった。
「アキラと話した!」
「そうっすか」
「うん。隆二くんのお陰、ありがとう!」
「自分は何もしてないっすよ」
「お礼に願い事一つだけ聞いてあげる」
目をパチクリさせてそんな言葉を放つユヅキさん。
正直俺の願いなんて一つしかない。
分かりきっている事を聞くのか、この人は。
「ユヅキさんが幸せであること…それが俺の願いっす」
「そう言うと思った!隆二くんならそう言ってくれると思ってた」
明るくそう言うユヅキさんに俺も笑う。
「分かってて言わせるなんて確信犯っすよ」
「ごめんね、でも分かる……隆二くんの考えてること。じゃあ幸せにして、私のこと」
……え?
って言葉は飲み込まれた。
目の前で目を閉じて俺に触れているユヅキさん。
あの夜、たった一度触れた温もりと変わらないそれに胸の奥が熱くなる。
長めのキスを終えて背伸びしていた足をパタンと戻すと、俺達に少し距離ができる。
「好きよ隆二くんが」
「え、まじで?」
「私を想ってくれる隆二くんの気持ちを信じたの、あの日。アキラのこと忘れられなかった私を全部受け止めてくれてたよ、最初からずっと…。隆二くんを愛してる……ダメ?」
上目遣いで俺を見上げるユヅキさんに、心拍数が超絶あがる。
俺の気持ちを100%知ってて、俺の答えも100%分かっててるユヅキさんは確信犯だって思う。
でもどんなユヅキさんも受け止めるって決めたから。
アキラさんには叶えられなかったその夢、俺が叶えてみせる。
「幸せにしてあげる…」
俺の言葉に飛びついてくるユヅキさんを身体全部で抱きとめた。
「やっと手にいれた…俺は絶対諦めないから…」
「隆二くんのこと、信じてる」
「好きだよユヅキさん」
そっと顔を寄せると、唇を人指し指でつつかれて。
なに?
ダメ?いいじゃん!
そう思ってもう一度強引に顔を寄せると、プイって顔ごと逸らされて。
「ちょ、ユヅキさん?」
「ここ会社だもん!野次馬があそこに数人……」
視線の先を辿ると同期の臣と後輩の岩ちゃん。
みんながそこにいた。
「りゅーじ、いい加減にしろよ!」
「りゅーじさん、さすがに恥っすから!」
臣と岩ちゃんに言われて不機嫌になる俺をユヅキさんがデコピンしながら笑ってる。
その笑顔を見ていたら何もかも忘れて幸せな気持ちになるんだ。
俺が、愛を教えてあげるからね、ユヅキさん。
*END*