▼ 愛を教えます3
できれば初めてはシラフであってほしい。
乱れるユヅキさんを何度となく脳内で想像してきたけど、どうしても手が出せなかった。
いい加減な気持ちで初めてをしたくなくて。
単なる俺の我が儘なのかもしれないけど。
というよりそう、やっぱり引っ掛かっていたんだ。
ユヅキさんの言葉を。
何をどう諦めたんだ?って。
アキラさんは何て言うだろうか?
【今市?】
「夜遅くにすいません…」
【いいけど、どうかした?】
「聞きたいことがありまして」
【なに?】
ふぅーっと息を吐き出して俺はチラッとベッドで眠るユヅキさんを見た。
ぐっすり眠っていて起きる気配はない。
「あの、ユヅキさんに聞きました、別れたって。…それであの、何で別れたか聞いてもいいっすか?」
【…あーそう、そうか。なんていうか、これだってことじゃなくて、その…】
言いづらいだろうけど、俺は引かない。
アキラさんの言葉でユヅキさんをどう思っていたのか知りたいんだ。
「諦めたって言ってました、ユヅキさん」
【…そうか。そうだな。ユヅキなら何しても笑って許してくれるってどっかで思ってたんだ。甘えてたんだよ俺。男として仕事が一番。ダチが二番。三番目にユヅキだったのが現実で。当たり前にユヅキとの約束すっぽかしても、ユヅキは何も言わなかった。逢いたいも、寂しいも、一度も言わなくて…だから甘えてた。それの積み重ねでユヅキが疲れちゃったんだよ…俺の責任。俺がもっとユヅキの気持ちに寄り添ってれば今もユヅキの隣にいれたんだって】
「アキラさんのこと好きだったから言えなかったんじゃないんすか?」
【思ってること言えない付き合いなんて違うだろ。ずっと我慢させてんの分かってて気づかないフリしてた俺が悪いよ今市。ユヅキは本当はすごく寂しがり屋で弱いんだ。だけど強がる癖があるからちゃんと気持ち伝えてやって。今市ぐらいストレートだったらユヅキもきっと素直に言えるんだと思うから】
アキラさんに託された想い。
この人もまた、俺の気持ちを分かっているんだって。
分かった上でユヅキさんを俺に託してくれるなら、俺はただ受け止めるだけ。
「アキラさん。自分ユヅキさんのことマジで愛してます。できればずっと傍にいて欲しいって思ってます。その想いユヅキさんに伝えますから」
俺の言葉に黙り込むアキラさん。
けどすぐに笑ったように思えた。
声色が優しくなったように思えた。
【頑張って付き合うことを諦めたんだよ、ユヅキは。話し合ったり喧嘩したり…頑張ってやることでもねぇけど、それが必要な時もある。付き合いだけじゃねぇけど、何に対しても諦めたらそこで終わりだって思う。それが俺とユヅキの結末。今市は諦めないでやって!】
「はい」
【じゃあな】
……諦めたって、そういうことだったのか。
アキラさんの言う疲れたって、そういうことだったのか。
ベッドで眠るユヅキさんの頬を指でなぞる。
「寂しがり屋の弱虫…か」
ちゃんとユヅキさんのこと見てたんじゃん。
ちゃんとユヅキさんの弱さ分かってたんじゃん、アキラさんは。
でも大事なのは、二人の間に何か起きた時に二人で考えて二人で乗り越えること。
それを苦に思ってしまったら、愛は消えているのかもしれない。
寂しいから一緒にいるような関係は望んでない。
好きだから、一緒の時を過ごしたいんだ俺は。
それが愛じゃないの?ユヅキさん。