SHORT U | ナノ

 2

私の好きな人は優しい。

すごく優しい人。

だけどちょっと人とズレたところがあったりする。




「2015年度をもって、松本利夫とMAKIDAIとUSAの三人がEXILEパフォーマーを勇退します」


私がそれを耳にしたのはメディアに発表する少し前のことだった。

えっ!?

ちょっとよく意味が分からない。

第四章が始まったばかりでEXILEとしての新たな第四章をまだファンの前でも見せていないっていうのに、最後?

それより何よりよっくんがEXILEのLIVEで見れなくなるの!?

頭から冷水をかけられたような衝撃だった。

世間一般的にここ(株)LDHでは社内恋愛禁止とうたわれているものの、それはアーティスト同士という意味で、ぶっちゃけ数多くいるスタッフの子と付き合っているメンバーは少なくない。

私とよっくんもその中の一つで。

だけど大っぴらにはしていない今、私達の交際を知る人なんて数少ない。


「ユヅキさん、大丈夫ですか?」


企画担当のゆきみちゃんが心配そうに私の隣にきて小さく言った。

全然大丈夫じゃない私は、思考が完全に止まっちゃって動くことすらできない。

それを見て「直人さん」小さく直人を呼んだゆきみちゃんの後ろ、直人が顔を出した。


「ユヅキちゃん!?」


直人の顔が目の前にきてジッと私を見つめるけど瞬きすらできそうもなくて。


「泣いちゃうから言ってない…USAさん前にそう言ってました。心配かけたくないとか、頼りにしてないとか、そんなんじゃなくて、ただユヅキちゃんの悲しむ顔は見たくないから…って…」


いつもおちゃらけた直人の真面目な言葉に、そんなこと言われたら私じゃなくても泣かない?…なんて思いながらも私はジワリ溢れてくる涙を止められなくて。

ゆきみちゃんが私を隠すみたいに前に立ってくれて肩を震わせる私をきっとよっくんは気づいているんだと思う。

結局よっくんの優しさに甘えてた私は、彼が望んでいないであろう泣くことしかできなくて。

前に進まないといけないのかもしれないけど、どうにも頭も身体もついていけないでいる。

いつかはくるんであろう…と思わなかった訳ではないものの、こんなに早くそれを体験しなくてはならないのか…そう思うとやりきれない気持ちでいっぱいだった。

でもそう思っていることをできればよっくんには知られたくなくて。

こんなに弱い私でもやっぱり好きな人を悲しませたくはないと思っている。

そこにプライドは持っているんだと。



- 15 -
prev / next