SHORT U | ナノ

 幸せの一歩7

「……はぁ。やっとユヅキに触れられた。我慢しすぎて死にそうだった…」



項垂れる直人はそのままあたしの頬を指で擦った。



「もう我慢しねぇから」

「待って、直人の女って!?」

「言ったじゃん、逢いたかったって。俺に逢えなくてあいつらの誘いにのったの?」



…お見通しだ。

さすが、族の頭は違う。

あたしの考えなんて全部読まれてるのかもしれない。



「…分かってたの?」

「え?」

「あたしの気持ち…」

「うん。好き好きオーラ隠しきれてない感じまでな!」



ポンって頭を撫でられてギュっと抱きしめられる。

胡坐をかいて座っている直人の分厚い胸元に顔を埋めるあたし。



「帰るか?送るよ」



ドクドクって耳元で早鐘ねを鳴らす直人の心音。

直人もあたしと二人っきりで緊張してるの?

そっと顔を起こして真っ直ぐに直人を見つめた。

赤く腫れた頬と、切れた口端。

血の味がしたのはここが切れていたからだって、今さら思う。



「痛そう…」

「痛くねぇって別にこんなの」

「あたし救急箱持ち歩いてるの、手当てしてあげるから脱いで」

「え?」

「早く!」

「あー…けど…」

「恥ずかしがってないで、早く」

「恥ずかしがってねぇよ!」



バサって着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。

目の前に広がる完璧に作りあげられた直人の身体。

誰かと比べるものじゃないけど、比べる人なんていないけど…



「奇麗…」



思わず手を這わせると、直人が小さく溜息をつく。

困ったように眉毛を下げてあたしを見つめる直人。



「抱くよ、このまま…」

「へ?」



直人の身体に触れていた手をギュっと捕まれて…―――え?そう思った時には、この倉庫にポツンっと置いてあったドデカイ黒い大きなソファーの上に押し倒された。



「え、抱く、の?」



思わず聞き返したあたしに、まるで奇妙な物を見たかのような何ともいえない表情で見下ろす直人。

白いメッシュの入った長めの前髪が顔にかかってすごくセクシー。



「いや聞き返されると思ってなかったけど…。無防備に身体なんて触ったら反応すんに決まってんだろ?」



…ここで抱かれる?

あたし初めてだけど、大丈夫?



「初めてだけど、できるかな?」



思ったことをそのまま口に出すと、直人はあたしの上で一瞬固まって、それからグルリと眼球を動かして目を逸らすと、すぐにまたあたしのことを見つめた。



「…キスも?」

「うん…」



あたしの答えに直人はどうしてかそっとあたしの上から下りた。



「なお、と…?」

「初めてだったらやんねぇ、ここじゃ。もっとちゃんと抱いてやるよ」



ここにきてまた直人の優しさが目立った。

でもあたし、場所なんてどこだっていい。

ようは気持ちの問題。

だから、起き上がった直人の腕を引っ張ってあたしの上に乗せた。



「うおっ!なんだよ、どうした?」

「いい、ここで。あたし今がいい…。直人のこと好きだってこの気持ちにもう嘘はつきたくない…。初めてだからうまくできないと思うけど…」



あたしの言葉にどうしてか泣きそうな顔をした。

JSB三代目の頭張ってる直人なのに、あたしのこんな言葉ぐらいで泣きそうになるなんて…



「ユヅキ…――好きだよ。ずっと初めて逢ったあの日から俺、ユヅキが欲しかった…」



直人の甘い告白と同時にまたあたしの上に乗ってキスをされた。

例えるのならばさっきよりも濃厚とでもいおうか、舌であたしの唇を舐めながら軽く呼吸を荒げるあたしの唇を割ってその舌を口内に入れる。

そのまま歯列をなぞって唇をチュって吸う。

上半身裸の直人の背中に腕をかけると、はぁってあたしの上で甘い吐息をはいた。



「身体、痛くない?」

「平気。ユヅキは?怖くねぇ?」

「うん。直人も抱かれることも怖くない…だいすき…」



どうしてだろう、好きって言葉にするだけで、大好きな人に想いを伝えるだけで涙が出る。


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