▼ 幸せの一歩3
「分かってるよね、俺がマジでユヅキちゃん好きなの。俺こんなんだけど、人を想う気持ちは間違えてないから…信じてよ俺のこと。何かあったら俺が守るから…」
素敵な告白だと思った。
だけど、何かあったら遅いんじゃないかって。
直人がいる世界にこんなあたしが一歩踏み込む勇気なんて、今更持てない。
それがあたしなの。
「…ごめんなさい」
たった一言そう言った。
「なんで?他に好きな奴いんの?」
引かない直人に喜びすら感じるっていうのに、素直になれない。
怖いんだ。
どうしたらいいのか分からなくて。
嘘ついて好きな人がいるって言えば納得する?
「…そうじゃない」
「俺が嫌い?」
…苦しい。
好きだから怖い…なんて感情、男の直人に伝わるわけない。
族の頭やってる直人に、怖いなんて…きっと分からない。
嫌いになんてなれっこないけど、好きとは言えない。
応えられないあたしに「そっか、分かった」小さく直人が答えた。
その瞬間、ズキっと胸が痛くて。
自分で突き放したくせに、それでも直人が離れてしまうことがこんなにも悲しいなんて。
ばかみたい、あたし。
「ごめんなさい…」
「謝んなくていいよ。俺が勝手に好きなだけだから!」
それなのにあたしに対して優しくしてくれる直人を、やっぱり心の中では好きだと思ってしまう。
こんな矛盾した気持ち、初めて。
「帰るか、送る」
ポンって背中を軽く叩くと、直人はあたしをバイクの後部座席に抱きあげた。
いつも送ってくれるのはバイクで。
このバイクに乗れるのも、今日が最後かもしれない。
走り出した後ろで、「ごめんね」「ごめんね」って心の中で何度となく呟く。
あたしが心で呟くたびに、どうしてか直人がギュっとあたしの腰に巻きつけた手を上から握り締める。
心が痛い。
どうしてあたしは、大好きな人を信じきれないんだろうか…
そんな疑問に答えが出るはずもなく、あっけなく家の近くでバイクが止まる。
住宅内だからって、いつも少し手前の小さな公園でバイクを止めてそこから家まで歩いて送ってくれる直人。
ただ隣を歩いてくれる直人をこんなにも愛おしく思うのに…
「どうかした?」
そんなセンチなあたしを覗き込む直人はいつも通り。
あたしが断ったことなんて忘れているみたいな、そんな顔。
「直人…」
「ん?」
「…うううん、電話大丈夫?」
気づいてた。
ずっと直人のスマホがポケットで振動していることに。
やっぱりチームで何かあったんだって。
「ユヅキちゃんが気にすることなんて一つもねぇから」
ポンって頭に手を乗せる直人。
そんなに大きくないその手に、触れたい…
でもきっと触れたら戻れないよね。
そんなとこまで弱気なあたし、はなっから直人に似合わない。