▼ 抱きしめたい5
ピンポーン。
「臣ちゃん!?どうしたの、あたしに逢いたくなっちゃった?」
いつもみたいに明るく俺を迎えてくれるユヅキだけど、玄関に入った途端明るい場所で俺の顔を見て「どうしたの口…」泣きそうな顔で俺を見上げた。
倒れこむようにユヅキに抱き着く俺を目いっぱい抱きとめてくれる。
「ごめんユヅキ…大事な話がある…」
そう言って部屋にあげてもらった。
薬箱から消毒液を出してコットンで拭う。
その顔からはいつもみたいな笑顔は完全に消えていて。
今にも泣きだしそう…
「ユヅキごめん…ごめんね…」
言葉にしようとすると涙が溢れてきちゃって…
目の前で泣き出す俺を見て、ユヅキの手が止まる。
深刻な表情で俺を見ていて…
「ユヅキと付き合っていながら俺…―――別の女の人とも付き合ったってた…」
「え…」
「ゆきみさんと会ってたんだ、今まで…」
「…嘘でしょ、なに言ってんの…臣ちゃん!ねぇ臣ちゃんっ!!誰がそんなの信じるのっ!!!」
俺の肩を掴んで手で思いっきり揺らす。
見る見る顔が崩れてその綺麗な頬に涙がポロポロと伝っていく。
彼氏の浮気だけじゃなく、浮気相手が信頼している大好きな先輩だなんて、ユヅキにこんな残酷なことってないと思う。
それをさせちゃった俺とゆきみさん。
俺の叶わない気持ちが、ユヅキを傷つけた。
「浮気は許さない!って言ったよあたし!浮気は許さないって…浮気は…―――どうしてゆきみさんっ!?ゆきみさんは直人さんの彼女でしょっ!!あんなに憧れのカップルいないって思ってたんだよ、あたしっ!臣ちゃんっ、ねぇ臣ちゃんっ、答えてよっ、なんでゆきみさんなのっ!!!」
ボタボタと大粒の涙を零すユヅキに俺は何もできずに俯くだけ。
「ユヅキも殴ってよ俺の事…。ゆきみさんのことずっと好きだったんだよ俺。ユヅキと付き合ってるのに、ずっとゆきみさんのこと考えてたんだよ俺…」
「嘘だよ!臣ちゃんはいつも優しかったもん!あたしもことちゃんと愛してくれてた。ちゃんとあたしのこと考えてくれてた!」
信じたくないってユヅキの気持ちは分かる。
でも俺マジでそうだから。
マジで…
「臣ちゃんのバカっ。バカバカバカ!許さないって言ったのに、あたし浮気は絶対に許さないって言ったのに…―――臣ちゃんと別れたくない…。それでもあたし、臣ちゃんの傍にいたいよ…」
ギュっと俺を抱きしめるユヅキ。
震える身体で強く俺を抱きしめるユヅキは、泣きながら俺を許してくれた。
ゆきみさんと直人さんがどうだったのかは分からないけど…。
もう二度と浮気はしないって。
ゆきみさんとも二人っきりで会わないって。
死ぬ気で直人さんに謝るしかないって。
「ユヅキ…愛してる…」
「あたしも、愛してる…広臣…」
ベッドの中で抱き合って眠った。