▼ ピンク色の猫1
「がーんちゃん!私のこと彼女にする気ない!?」
「…―――え?」
ふわりと腕を掴まれてその手を腰に回される。
あっという間に俺達の距離が近づいて、半ば強引に俺が彼女の腰に腕を回しているように見えなくもない。
「え、あの…」
「好きだよ…―――たかのり」
「えっ」
グイッて後頭部を手で押されて、目の前に彼女の顔。
思わず目を閉じたその瞬間、唇に感じたのは柔らかい…なんていうか、
「なにこれ」
「ふふふ。ぬいぐるみ!剛典が私を好きになったらちゃんとしてねっ!」
まるで俺の返事を無視してあっという間に俺の前から去って行った彼女。
心臓がドクドクいって全身の血が顔に集まるような感覚。
はっ、なにこれ!
つーか何なのあの人…
本気?冗談?俺のことからかってる?
試してる?楽しんでる?
え、わけわかんねぇっ!
今まで好きになった人には自分から伝えてきた。
運良くフラれることもなく、すんなり付き合うことになったものの、なかなか長続きしなくて。
去年新社でこの会社に入ってからも、それなりに色んな子と遊んできた。
特別な感情を持てる子なんていなくて、だから飲みに行ったりカラオケ行ったり映画見たり、そーいうちょっとデートっぽいこともしてきたけど付き合うまでもなかったけど。
何かこの感覚久々…。
俺より1年先輩のその人は自分の言いたいことだけ言っていなくなったもんだから、残された俺の心臓は勝手に盛り上がってるじゃねぇかよ。
初めてだった、社会人になってこんな気持ちになったのは。
「エリちゃんエリちゃーん!いつになったらデートしてくれんの?」
「いや僕彼女いるって言ってんじゃん!」
「知ってるよ!デートだよ、デート!彼女いる男誘っちゃいけないのー?」
がっつりエリーの膝の上に乗っかって絡んでる…ソイツ。
「…だってユヅキは僕のこと本命じゃないじゃん?そんなの見てれば分かるよ。デートがしたいだけでしょ?」
エリーの言葉に目を大きく見開くユヅキさん。
何故か顔を真っ赤にしてシュンと借りてきた猫みたいに大人しくなってエリーの膝から降りた。
俯いたまま正座した膝の上でギュッと手を握りしめてんのが分かる。
それから一つ息を吐き出して言ったんだ。
「どうして分かるの?」
そう言った声が微かに震えていて、俺はそっと近寄った。