SHORT U | ナノ

 イニシャルN3

今夜初雪が降ったら「だいすき」って伝えてもいい?

受け止めてくれる?





なんて思っていた私の考えは甘かった。


女子はお酌と料理の取り分け。

男子は片付けと出し物。



目まぐるしく忙しい時間がひたすら過ぎていって、気づいたらクリスマスもあと数時間。


イヴは仕事だったし、せめてクリスマスぐらい片岡くんと2人きりで過ごしたいんだけどっ!


そう思っていたのに、片岡くんの姿はどこにもなくって。


キョロキョロ辺りを見回していた私の後ろ、タンって音がして、不意に煙草と香水の匂いが鼻をついた…




「見つけた!ユヅキちゃんちょっとだけ時間あるっ!?」



腕を掴んだのは片岡くん。


うそ、逢えた!


私を引っ張って連れて行く先は会社の屋上?


ドアを開けると冷たい空気が一気に流れ込んできた。




「キャッ!寒っ!」

「あ、ごめん待って!はい」



片岡くんがスーツの上着を脱いでそれを私の肩にかけてくれる。


真っ白なシャツが片岡くんの肉体美を綺麗に映し出していて。



「ええ、寒いよ、片岡くん!大丈夫?」

「へーきへーき!俺鍛えてっから!それよりほら、見て!」



空を指さす片岡くんに、視線を空に向けた私の前、真っ白な雪がヒラヒラと舞い降りていて…



「うそ、初雪っ!!」



思わず片岡くんの腕をギュッと掴む。



「夢みたい…ロマンチックー!」



屋上からは東京の夜景が一望できて。

見下ろすそこは煌びやかな世界が広がっている。



空からは雪。

ビルの下は夜景。



隣には片岡くん…



「ホワイトクリスマスだよ片岡くん!」



振り返った片岡くんは、雪じゃなくて私を見ている…?

そのつぶらな瞳が真っ直ぐに私をとらえているんだ。



「あのさ…教えてよもう一回…」

「…なにを?」

「初雪のジンクスってやつ」



言われてカァーっと身体が熱くなっていくのを感じた。



「好きな人と一緒に見ると一生幸せでいられるって…」

「だよね。見て見て俺達今一緒に見てるってわけ…」

「うん…見てるねっ!」




片岡くんが嬉しそうに笑ってるから彼の腕に自分の腕を絡めてみた。

ほんの一瞬目を大きく見開いた後、目を細めて笑うと「抱きしめちゃうよっ!いいのっ?」冗談なのか本気なのか、片岡くんの明るい声に「いいよー」なんて軽く答えた。



「あーあったけぇ」



想像以上に力強く抱きしめられて片岡くんの肩に顔を埋める。

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