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「歯磨きしたらチューするから!」
私をポンポンって撫でると、そっと離してそれから洗面台のガラスの瓶に入ってる青い歯ブラシを手に取ってそれを口に入れる。
「えへへっ」
おはようのチューまだだったなぁ!
思わずニンマリする自分が鏡に写って恥ずかしくなった。
隆二は片手で私の手を握ったままで。
ユラユラと身体を動かす私を見て嬉しそうに微笑んでる。
結局の所、私が隆二のことをすごく大好きだって気持ちがいつも全てにおいて勝ってしまう。
「ユヅキ」
「んー」
「好きだよ」
「んふふふ」
隆二に抱き寄せられて甘いキス。
歯磨き粉の味のミントなキス。
鼻の下にあたる髭も、じつはもう慣れた。
最初はキスをする度にくすぐったくて。
でも髭だけは絶対に剃らない隆二。
髭があってもなくても隆二を愛する気持ちに変わりはない。
外見がどんなに変わろうが変わらまいが、隆二を想う気持ちは変わらない。
「生放送頑張ってね!」
「うん!頑張る!」
「…私だけにサイン贈れる?」
こんなお願い普段はしないんだけど。
この前直人さんが直人さんの彼女さんだけに贈ったサインをしてたって話になったらしく、それを帰ってきた隆二にきいて、羨ましくなった。
二人だけが知ってるサイン。
誰にも気づかれないくらいの小さなサイン。
「え、何かある?」
「キス顔…」
「えっ!?それはちょっと…」
「あはは、だよね!冗談!」
ちょっと考えてから隆二はポンッと私の頭に手を乗せる。
「うーん。キス顔はできそうもないけどユヅキにだけ分かるサイン贈るから、しっかり見てて!」
ニコって微笑む隆二。
期待しちゃうからねっ!!
笑顔で迎えにきたバンに乗ってお仕事に行った隆二はその夜――――
最後の最後で唇をムンって尖らせた。
テレビの前にいた私は一瞬目が点になりかけたけど…
「この顔って…」
隆二がキスしてって甘える時にする顔で…。
キス顔っちゃキス顔…
もー隆二!!
私今すぐキスしたいんだけどっ!!
バタバタしてソファーの上、ハートのクッションをギューッと抱きしめた。
それから数時間後、隆二がひっそりと帰って来た。
ガチャンって鍵が開く音がして、リビングでお酒の準備をしていた私はバタバタと廊下をかけて玄関で隆二を出迎える。
「お帰りっ!」
勢いよく飛びつく私を抱きしめる隆二にチュッて小さなキスを落とす。
「さすが!ちゃんとサイン通じてるね、ユヅキ」
「もう、嬉しいっ!!」
「俺のオネダリ。キスしてユヅキ」
ムンって唇を尖らせる隆二の頬に手を添えて甘いキスを落としたんだ―――――
*END*