▼ 傍にいさせて2
「やっぱりここか…」
来客用のソファーに寝っ転がってシャンパンをラッパ飲みしていた私にかけられた声。
絶対に誰も来ないと思っていたから思わず吃驚してシャンパンを噴き出した。
「うわ、おまっ!きったねぇな!」
「…何してんの、健ちゃん!」
「いやそれこっちの台詞やろ」
「あ、とりあえず拭くね」
タオルを持って健二郎の顔とかスーツとかを拭く私に大きな溜息が落とされた。
一端落ち着こう、私…
「どうしたの?」
「せやから俺の台詞やって言うてんねん」
「え?ちょっと意味がよく分からないけど…」
「お前断ったやんな、俺の誘い…」
―――すっかり忘れてたけど、今年のクリスマス一緒にすごさへん?って誘われたんだっけ?
でもあれって軽く誘われたから「冗談でしょ?」って返したら「冗談や」って…。
「本気で誘ってくれてたの?」
私が聞くとちょっとだけ目を逸らして「まぁ…」ボソっと答えた。
「気持ちは有難いけど…―――ご」
「言わんでええ!!!」
…え?
目の前の健二郎は困ったような顔で着ていた黒いコートを脱いで椅子にかけた。
そのままネクタイを指で軽く緩めるとふう〜って息を吐きだした。
「何か抱えてんのやろ?ずっと何年も…」
ソファーにドスンって腰をおろす健二郎は、普段はおっさんにしか見えないのに、どうしてか今日は普通に見えて。
キッチリあげられた黒い前髪がほんの少し乱れて落ち気味だった。
そして…―――私のことを気にかけてくれたのは、あれ以降健二郎が初めてだったなんて。