▼ 傍にいさせて1
「お先に失礼しまーす」
「はーいお疲れ様!」
「ユヅキさんまだ帰らないんっすか?」
若手の岩田くんこと岩ちゃんが帰りそうに見えないであろう私を見て立ち止まる。
「急ぎの書類があって、それだけやってくから!ほら早く帰りな、可愛い彼女待ってるんでしょ!」
「…急ぎなんてありましたっけ?」
うわ、鋭い!
この時期に急ぎの書類なんてもんはない。
適当に言っただけだった。
「あるある、岩ちゃんには分からない急ぎのがね!」
「…何かしっくり来ないっすけど…俺いつでも手伝えるんでもしもの時は電話してください!」
ニッコリ微笑む岩ちゃんに内心ドキっとしてしまうのは仕方のないこと。
誰だってこんなイケメンに優しく微笑まれたらドキっとするもんだって。
「うん、ありがとう!お疲れ様」
「…メリークリスマス、ユヅキさん」
岩ちゃんは一歩近づいて私を片手で抱きよせると、耳元でそう囁いたんだ。
そんな岩ちゃんに紛れていそいそと帰り支度をして去っていく社員達。
相変わらずみんなを一人見送る私。
もうここ何年も同じことの繰り返し。
いつまでたっても先に進めない弱い女は私。
「いーもん、いーもん一人クリマススだって案外楽しいもんだもーん」
デスクにしまっておいたチーズを取り出して、冷蔵庫からシャンパンを出した。
誰もいなくなったフロアに大音量でかけるクリスマスソングにチーズをかじりながらシャンパンを飲む…――これが私のクリスマスの定番だった。