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…何だか煮えきらないよ私。
ブイーンって髭剃りで髭を整えている隆二の腰に後ろからギュッと抱きついた。
カチッと髭剃りを止めて「どうしたの?」優しい隆二の声。
「だって」
私の声じゃ反応しないくせに、ATSUSHIって単語に反応しまくった隆二。
何か不満。
「ユヅキ?」
「やっぱりATSUSHIさんに勝てないんだ私…」
「…え?なに?どーいう意味!?」
クルリと反転した隆二は私を正面から抱きしめる。
子供みたいに体温高めの隆二はあったかくて。
胸に顔をグリグリ埋めるとポンッて背中を優しく撫でる。
「ATSUSHIさん来ないの。隆二が起きないからATSUSHIって言ったら起きるかな?って思って試してみた」
仕方なく素直に真実を告げた。
隆二は「あ、そーなんだ」軽くそう言うと「ありがとういつも起こしてくれて」、怒りもせずにポンポンって肩を叩くと私を離してまた、髭を整え出した。
「髭もない方が本当はすき」
「え?ほんと?」
「うん。髪も上げない方がすき」
「マジ?」
「うん。隆二は隆二だもん!」
わざわざATSUSHIのコピーみたいにしなくても、そのままの隆二で魅力的なんだから。
歌い方も仕草も、隆二らしくあってほしい…
「そんなにATSUSHIさんぽくしてるつもりはないんだけどなぁ〜」
えええ!!!
自覚症状無しなの!?
これが天然なの!?
何だかやっぱり勝てない気がした。
カチッと髭剃りを置いて、鏡に向かって顔を作る隆二。
その瞳はランランとしていて。
「今日生放送だね!」
「うん!ATSUSHIさんの歌聴けるのすげぇ嬉し…―――」
途中でハッとして言葉を止めたのかもしれないけど、余計に微妙な空気になってるわけで。
「ユヅキの為に頑張ってくるから」
キリッと眉毛を上げて隆二が言った。
悔しいけど、そう言われて悪い気はしない。
それが取ってつけたような言葉だったとしても、隆二の言葉で隆二の声に乗せるだけで、それは私にとっての嬉しい言葉に変わるんだって。
ATSUSHIに憧れることと私への想いはちゃんと別だよって、そう言ってくれているに違いないって。
だから隆二の腰に回した腕に力を込めて「うん…」小さく呟いた。