SHORT U | ナノ

 粘り勝ち5

12月24日。

クリスマスイヴ。

街はどこもクリスマス一色だ。


待ち合わせはタクシー乗り場。

車の運転ができないからってタクシーでイルミネーションを見に行こうって。

哲也と一緒ならどこでもいんだけど、少しでもクリスマス気分を味わいたいって言ってくれたのは哲也の優しさだと思う。

こーいう世界だから普通に手を繋いでイルミネーションを見ることはできないけど、だけどそれでも私にイルミネーションを見せたいって哲也の気持ちが何より嬉しい。



タクシー乗り場に着いた私の前に一台のタクシーが入ってきて。

ドアがスッとあいた。

中にはちょっとカチッとした服装の哲也がいて。



「乗ってユヅキちゃん」



グイッと腕を引っ張られた。



「今年はピンクみたい」



中目黒から少し離れた川にピンク色のイルミネーション。

去年は青の洞窟っていってすごく奇麗だったけど今年のピンクもすごく可愛らしい。


自然とタクシーの中で手を握り合う私達。

お互いの温もりに安心できる存在。



「奇麗だね〜」

「外降りたいなぁ〜これ」



そう言ったのは哲也の方。



「ダメですよ、こんな所…今夜中にすごい噂になって哲也さんのファンが減ったら大変!」

「え、ユヅキちゃんそれ嬉しいんじゃないの?俺タップで人気上げてるって、う・わ・さ・?」



…何よ、もう!

可愛すぎるよっ!!!


事実に何も言えずに自嘲的笑いを見せる私に微笑む哲也は、思った通りのSっけ満載。




「嬉しくないです。EXILE TETSUYAと土田哲也は別物だから。私が一人占めしていいのは土田哲也だもの…」

「え〜俺的にはEXILE TETSUYAもユヅキちゃんのもんだよ!」



パチって哲也が私に向って小さなウインクを飛ばした。



…――か、かっこいい。

どうしてこの人こんなにかっこいいの、もう。



思わずカアーって赤くなる私の指をキュっと握る。




「照れ屋な所も可愛いね」



これ以上言わないで。

本当に恥ずかしくて、でも嬉しくて、やっぱりフワフワした複雑な感情だった。



そうやってしばらくピンクのイルミネーションを堪能した私達。



「そこで降ろしてください」



哲也が運転手さんに告げてドでかいタワーマンションの前で降りた。



「準備はできてる?」

「え?はい」

「んじゃ連れてっちゃう!」



ニッコリ笑ってその中に足を踏み入れた。

エントランスを通って辿り着いたそこは…



「どうぞ」



哲也の住んでるマンション。


長い廊下の向こうはシンプルなモノトーンの家具が置かれていて、大きなリビングの窓際に煌びやかなクリスマスツリーが置かれていた。

ダイニングテーブルには真っ赤な薔薇の花が大量に飾り付けされていて、そこに置かれたシャンパンとお料理。



「すごい…これ全部哲也さんが?」

「え、料理は買ったんだけどね。ユヅキちゃん何が好きか分かんなかったから適当にいっぱい頼んじゃった」



そう言って私のコートをさり気なく脱がせてくれる。

ハンガーにかけてクローゼットにかける哲也。


それ私のコート、哲也のクローゼットの中に入れちゃっていいの?

ちょっとしたことが一々嬉しくて。



「お花もツリーもすごく奇麗。素敵…何か大人のクリスマスって感じで…」

「大人のクリスマスを演出してんのよ、俺。だって俺達大人じゃん?」



そう囁いた哲也は後ろからギュっと私を抱きしめた。

途端にドキンっと心臓が跳ね上がる。

ドキドキなのか、バクバクなのか自分の心拍数が上昇していて…



「ユヅキ…」



甘く私を呼ぶ哲也がそっと私の身体を反転させた。


目が合った瞳の奥は微かに熱くユラユラと揺れて見えて…


半開きの私の唇にツーっと指を添えてなぞった。


何もできずにただされるがまま哲也の指を感じていて…



「どうされたい?」




不意に指で髪を耳にかけられてゾクっと肩を揺らす。


まだそこにあるシャンパンで乾杯もしてなくて、クリスマスプレゼントも哲也に渡していない。


まだまだやりたいことがいっぱいあるよ…――でも、我慢できない。




「哲也…」

「うん?」

「キスして…」



私の言葉にほんのり口角を上げた。

そのまま少しだけ屈んでチュって触れるだけの小さなキス。



「はい、したよ」



意地悪だよ、てっちゃん。

そんなんじゃ私、足りない。


ムウって唇を尖らせる私を見てそこを指でプニって触る哲也。

ちょっとだけ悪戯っ子みたいな笑顔で「ん?」って首をかしげるんだ。


もうもう、ほんっとズルイんだから。


悔しくて、でも恥ずかしくて…私は哲也の首に腕をかけてそのまま後頭部を自分の方に引き寄せた。



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