▼ 粘り勝ち4
「あの私っ!」
ガタンっと、立ち上がった瞬間椅子が鈍い音を出して…
哲也の所に行こうとした私の目の前に、カランってサンダルを鳴らして哲也が現れた。
「わお、ユヅキちゃん!」
勢いよく動き出した私を軽く受け止める哲也を私は見つめあげた。
ん?って顔を傾げて覗き込むような哲也との距離がいつもより近くてドキドキする。
でも今はそんなことにトキメいてる場合じゃなくて。
「て、哲也さん私達お付き合いなんてしてませんよね?」
「こらこらそんな大声で。みんないるからって照れない照れない!」
肩を抱かれてフロアから私を連れ出す。
興奮気味の私を何故かシャワールームへと押し込んだ。
「離してくださいっ。クリスマスはあのパートナーの子と過ごすんですよねっ?これ以上私のことからかわないでください、お願いだからっ」
何だか泣きそうで。
こんなになってもまだ、私の心の中はいつだって哲也を想っている。
私がどんなことを言っても「照れちゃって」とか「素直じゃないんだから」って言って優しく待っててくれている哲也が本当は嬉しくて。
でも言えなくて。
今までこんなにかっこいい人と付き合ったことがないから自分に自信も持ってないし、いつかきっとフラれるって。
芸能界の素敵な女優さんとかモデルさんとかにアプローチされたら私のことなんて簡単に捨てるんだって…
―――そう思って一歩も踏み出せなくて。
だけどそれと比例するみたいに哲也への気持ちは日に日に積もるばかり。
心が叫んでる…「大好き」だと。
この身体全部で思っているんだ「愛してる」と。
「聞いてたの?ユヅキちゃん。だったら分かるでしょ…」
そう言って私の髪を優しく撫でた。
もう頭ん中ぐちゃぐちゃで。
小さく左右に首を振ると困ったように哲也が息を吐き出した。
「もしかして肝心なとこ聞かずに逃げちゃった?」
そういう瞳は優しくて。
この後に及んで、むしろ今更ながら哲也に触れたい衝動にかられるなんて。
それを見破られたくなくて顔を背けるけど、グッと私の頬に手を添えて視線を絡ませられる。
距離が近くてやっぱりドキドキする。
「泣いちゃいそうなその顔も好きだよ」
「………」
「断ったよ、あの子は。うすうす気づいてたけどあの子の気持ち。けど俺にとっての一番はユヅキちゃんだから。誰に何を言われてもこの気持ちは変わらないよ」
トンって胸に手を当てて哲也が私を抱きしめた。
「もういい加減素直に言えよ、哲也が好きって。幸せにしてやるから」
いつものふざけた告白じゃない、真剣な想いに、溢れ出てしまう哲也への好き。
言ってもいいの、私?
ダメって今更思わないでよ?
私嫉妬もするし、哲也のこと独占したくなるかもしれない。
他の女の人とお話しないでとか、触ったりしないでとか、そーいう無理なワガママだって口に出しちゃうかもしれない。
それで哲也を困らせるかもしれない。
それでも私のこと受け止めてくれるの?
一度私を離すと、少し距離をとって両手を広げて待っている哲也に、その胸に今度は自分から飛び込んだんだ。
「哲也が好き!哲也が大好き!ずっと前から好きだった!」
ぎゅっと私を受け止めてそのまま強く抱きしめる哲也。
「やっとつかまえた。本当に強情なんだから。でも聞いちゃったから…離さないよ俺。悪いけどすげーしつこいから俺!」
「なんだっていい、哲也さんなら私何でも許せる…」
「その言葉そのままユヅキちゃんに返す。俺もユヅキちゃんなら何だって許せる…」
「ふふ、嬉しいです」
「俺のが嬉しい!どれだけ待ったと思ってるんだよ?」
オデコをくっつけて私を軽く抱いている哲也。
なんかもう、何もかもがフワフワしていて、自分達がどんな状態なのか分からなくて。
ゆっくりと近づく哲也にそっと目を閉じた。