▼ 粘り勝ち3
そんなことがあったものの、それ以降いつ会っても哲也の態度は相変わらずだった。
だけど、そんな時だったんだ。
「哲也さん!あのよかったらご飯行きませんか?」
聞こえた声に思わず足を止めた。
ざわついているフロア内でその声が耳に入った。
【哲也】って単語に。
ドアの前にいる私に勿論気づくことのない哲也。
このまま聞いていたら私が聞きたくないことが耳に入ってくるかもしれないって思う。
だけど動けなくて。
ドアに張り付いたままジッと聞き耳をたてていた。
「あ、俺?」
「はい。哲也さんのパートナーに選ばれた時すごく嬉しくて、ずっとずっと言おうと思っていたんです。…ダメですか?私じゃ…」
「嬉しいよ、ありがとう」
「ほんとですか?」
「うん」
「じゃあっ」
ダメだ。
聞いてらんないっ!!
やっぱり無理!!
私はドアから離れて自分のデスクへと戻った。
あの子哲也のパートナーの子だった。
お似合いだよね、あーいう子の方が。
ブンブン首を振る私に「元気ないじゃん、どした?」言ったのは啓司。
哲也と仲良しな啓司も、誰にでも気さくに話しかけてくれる人。
「な、なんでもないでーす!」
「あ、そう!?哲也も最近元気なくてさぁ」
そう言いながら啓司は私の隣のデスクの椅子に反対向きに座って話を続ける。
「ユヅキちゃんと何かあったのかなー?って。ねぇ、直っさん!」
ちょうどそこに通りがかった直人を呼んで私の前に引き寄せた。
サングラスを外してキョトンとした顔でこっちを見ている。
「え、何すか、啓司さん?」
「いやだから、哲也最近元気なくない?って」
「てっちゃんが?あーそうね、てっちゃん元気ないかも!何かあったの、ユヅキちゃん?」
何で2人とも私に聞くわけ?
私と哲也は別にそんなふうに聞かれる関係じゃないのに。
ムカムカする反面、哲也がメンバーの前でも私って存在を隠していないことが少し嬉しいなんて。
「私と哲也さんは別に何もないです」
だからそう言ったんだ。
そしたら2人ともつぶらな瞳を大きく見開いて。
「またまたー!哲也と上手くいってるんだろ?聞いてるよ俺ら!」
「そうそう!付き合ってるっててっちゃん言ってたよ!」
「んな、そんなの私何も聞いてないですっ!」
若干涙目で答えた。
「はいはい、そーいうことにしてるんでしょ!大丈夫俺達みーんな知ってるから!」
ポンポンって啓司の手が私の肩に乗るけど。
直人もニコッと笑って「早く仲直りしなよ!」なんて。
ちょっと待って、本当に私そんなんじゃなくて。