▼ 粘り勝ち2
「哲也さん待っ…」
口を開けて喋った瞬間、哲也の手が私の頬に触れてスッと唇を指でなぞった。
ジッと見つめる瞳はいつになく真剣で。
「気づいてないとは言わせないよ、ユヅキちゃん。…俺他の子とユヅキちゃんには違う態度で接してきたと思うけど…分かるよね?」
…分かってないわけじゃない。
周りが気づくぐらい哲也に甘く贔屓されていたこと。
でも、気づかないフリ以外に何ができた?
だって相手はあのEXILEのメンバー。
私なんてただの1スタッフ。
―――住む世界がちがすぎる。
「は、なして哲也さん」
「離さない。ユヅキちゃんの気持ちを聞くまで」
冗談にしたいのに哲也の顔が真剣だから何も言えなくなる。
「き、気づかないし、分かりません!哲也さんの気持ちなんて。私なんか相手にしてる暇ないでしょ!」
「もーこの子は本当に素直じゃないねぇ」
あふあふな私に対して余裕な哲也。
悔しいけど、どうにもできない。
「俺もそろそろ自分の幸せ考えてもいいかなって…。ユヅキちゃん傍にいてくれるよね?これから先もずっと、俺の傍に…」
冗談にできない哲也の告白に今の今まで封印してきた哲也への想いが溢れてしまいそうで。
必死で首を左右に振って否定した。
「できません私。哲也さんの傍になんて、できない…」
「どうしてよ?」
「哲也さんみたいな素敵な人、待ち続ける自信ない。芸能界には綺麗な人沢山いるし…」
言ってて自分がどんどん惨めになっていくようだった。
頭の中で分かっていたこと。
理解していたつもりでも、実際言葉にするとそれはとても惨めで。
「芸能界にいようが、いまいが、俺が綺麗だと思ってるのはユヅキちゃんだけだよ。そんなに信用できない?俺の言う事。こんなにユヅキちゃんのこと好きだって気持ち、信じて貰えない?」
首を傾げて覗き込む哲也に、「私も好き!」だと喉まで出かかっている。
言って幸せだと思えるのはきっと最初の数日。
時が経てば経つほど私の中での哲也への愛が大きくなって、それが嫉妬だったりヤキモチだったりで、きっと嫌われる。
そうやって汚い自分を哲也に見られたくないんだよ。
男にはきっと一生分からないかもしれないこの女心。
私なんてって思ってしまう私だからこそ好きな人には嫌われたくない。
必要以上に近づいてボロボロになるのなら、このまま何も始まらなくていい。
そうとしか思えない。
「信じられないです。本当に無理です、ごめんなさいっ!!」
無理やり哲也の腕の中からはい出て私は1人会社の出口へと走ったんだ。