▼ 嫌いなアイツ4
2人きりになって、コブラがはぁーっと小さく溜息を零した。
あたしの腰に回した腕は何故かそのままで、頭を鎖骨らへんに押し付けるように俯いている。
「何でずっと黙ってんだよユヅキ」
「…黙ってるって、なに?」
「アイツらに嫌がらせされてるって」
「あぁ、だってコブラには関係な…」
関係ないって、言えなかった。
いきなり顔を上げだコブラは、すごく真剣な表情で触れ合いそうな至近距離であたしを真っ直ぐに見つめている。
その瞳に吸い込まれそうで、ドキドキして。
蘇るあの台詞。
「関係ある。俺がユヅキに惚れてんだよ。お前は?そろそろ俺のもんになりてぇーだろ?」
自信たっぷりなその言葉に思わず笑う。
「そんな台詞コブラしか言えないって」
「俺だからいいだろ。マジでお前心配かけすぎ。もう目離せねぇーじゃん」
離さないでよ、じゃあ!
なんて台詞、口が裂けても言わないけど。
「お前さ、何か言うことねぇの?」
「え?」
「何も言わねぇならすきにするよ俺。無理やりとか嫌いだから一々聞いてんだけど…」
「わかりずらい、コブラ」
「わかりやすいだろが!ばーか」
グイッてコブラの腕の中に包まれた。
抱きしめられて初めて知ったけど、コブラってすごい胸板。
え、あんなに細いのになんでこんな身体いいの?
「ユヅキ…」
頬に手を添えてあたしを見つめるコブラが誰にも見せないような顔であたしに近づく。
何も言わないけどあたしの気持ちがコブラに伝わればいいって思う。
あたしも好きだよコブラ。
ゆっくり重なるコブラの唇。
ちょっとだけ冷たい唇は乾いていてすぐに離れた。
でもまたすぐにチュッて重なる。
何度もそれを繰り返すあたし達。
誰もいない2人きりの図書室で、あたしとコブラの初キスは永遠と続くのかってくらい何度も唇を重ね合わせた。
「あ、ねぇ、喧嘩は?」
いつの間にか静かになっている校舎内。
あんなに騒がしかったのに。
「あーヤマト達に任せてある」
「そっか。でも何であたしが狙われてることとか知ってたの?襲われそうになったのも…」
「あ?テッツにいつもユヅキのこと尾行させてたから」
はぁー!?
思わず顔をしかめたあたし。
テッツにいつも尾行させてた!?
「もういいか?続きさせろよ」
ンッ…。
不意打ちでされたキスはさっきまで何度もなくした唇を重ね合わせるだけのもんじゃなくて、舌をヌルっと絡ませるキスで。
必死でついていくあたしにコブラの甘い声がもれた。
絶対あたし、今日1日でキスがうまくなる。
そんなことを軽く思ったんだ。
コブラにキスをされたことで、ほんの一瞬過ぎった疑問はすっかりと忘れられていて。
その疑問に気づいたのは翌日のことだった。
【コブラさん激しいっす!】
そんな題名であげられたテッツのInstagramに、あたしはコブラにコブラツイストを御見舞してやった。
「やっぱり昨日の見られてたんじゃんっ!もうっ!!」
怒るあたしに、それでも本気で技にかかろうとするコブラを、それ以上怒る気にもなれなくて。
結局あたしはどんなでもコブラのことが好きなんだって。
*END*