▼ 嫌いなアイツ1
都立山王高校。
街の不良たちが生存するそこに生息しているあたし。
特に対した理由なんてないけど、ただ家から近いってだけでこの高校を選んだことを心から後悔した。
「…っす」
「…おはよう」
「顔が暗れぇぞ」
あたしの机の上に堂々と座ってプニってほっぺたを片手で抓るこの男…―――山王連合会の総頭、コブラ。
得意技はコブラツイストらしく、そこから来たあだ名がコブラ。
あだ名っていうか通り名っていうか、みんなが彼をコブラって呼んでる。
そんな大それたコブラは何故か毎朝あたしの机の上に座っていて、あたしに一々話しかけてくる。
普通族の頭なんていったら硬派であたしみたいな普通の女が話すような相手じゃないはずなのに…
だからどちらかといえば迷惑。
あたしコブラに興味なんてないし、話かけないで貰いたい。
―――なんて怖くて言えないけど。
「コブラがいるから気持ちが落ちる…」
「はぁ?お前〜何照れてんだ?」
「いや、照れとかそーいうんじゃないからほんと」
いい迷惑。
言えない言葉を飲み込むあたしに、それでも毎日ことあるごとに話しかけてくるコブラはあたしの前だとよく笑う。
顔はまぁ…――奇麗だよね。
「ユヅキ!呼ばれてるよ!」
クラスメイトに言われて視線を廊下に移したあたしは眉間にしわを寄せた。
コブラと仲がいいことからか、山王目当てであたしに近寄る女が多いことに気づいた。
「いないって言え」
「え?」
見ると、あたしの机の上でコブラが思いっきりガンつけている。
あたしに話す声とは別、ド低い声で最大級の眼力をきかせて睨んでいるから思わず椅子を引いた。
その瞬間、バランス崩して後頭部から奇麗に後ろに倒れた。
絶対頭打つ!!
咄嗟に目を閉じたあたしを、コブラの片手がしっかりと引きとめていて…。
「大丈夫!?つーか何で何もしてねぇのに後ろいってんだよ、ユヅキ!」
可笑しなもん見たって顔であたしを引きよせながらも笑っているんだ。
そんな顔ちょっとずるい。
奇麗な顔のコブラの笑顔なんて…―――ズルイんだから。
―――その日を境にあたしとコブラは友達になった。