▼ カラフル2
「え、チャリなの?」
「え、なんで?」
「だって雨だよ…」
「後ろから傘さしてくれるだけでいいから」
…超危険。
そう思うあたしの横で「しっかり掴まってね!」…啓司のお友達の直人くん。
彼女のゆきみちゃんを後ろに乗せて走りだす。
「あーやってゆきみみたいにユヅキも傘さすだけだから」
「…うん」
お尻が痛くならないようにって座布団を引いてくれて、あたしは跨って傘を開くとそれを後ろから啓司の頭の上に持っていった。
チラっと振り返った啓司は少し嬉しそうに笑っていて。
「あんま俺よりじゃなくていいから。ユヅキが濡れないようにさせよな」
ほらね、こーいうこと簡単に言えちゃうんだから。
他の男子がどれだけこーいうこと言うのかなんて知らないけど、啓司はいつだってあたしを優先してくれる。
「それと…」
グイって腕を引っ張られてお腹に巻きつけられる。
途端にあたしの顔が啓司の背中に密着して…
「危ねぇからちゃんと抱きついとけよ」
「…うん」
いつもは意地っ張りなあたしも、啓司がこれだけ素直に言ってくれるから、意地を張ることも少なくなってる気がして。
「やけに素直じゃん!俺に惚れたか?」
冗談だって、いつもみたいなお決まりな啓司の告白。
そして今日は雨だから…こうして傘を指すとそこは二人っきりの空間で。
ここには啓司とあたし以外誰もいない。
「うん…」
「…え?」
すごい勢いで振り返る啓司。
慌てて啓司が濡れないように傘を動かすけど、傘を握るあたしの手を上から掴まれて…
「今なんて?」
質問されてドキンっと胸が高鳴る…
「好きになった、啓司のこと…」
「マジで?いいの?」
何の「いいの?」だかよく分かってないけど…あたしの答えはイエスだ。
「うん、いいよ」
そう言うと目の前に啓司の顔…
「あっ…」って言葉は簡単に飲みこまれて…――ほんの一瞬だけど啓司の唇が触れた。
「よし、んじゃ行くぞ」
妙に気合いの入った声がして、啓司はあたしの髪を一撫ですると、腕をまたきっちりお腹に巻きつけて自転車を漕ぎ出した。
後ろからギュって啓司に抱きついて背中に顔を埋める。
昨日までと何だか見える景色が違うのはキスをしたから?
これが極めて低い確率をクリアしたカップルだけが見ている景色だと思うと自然と頬が緩んだんだ。
雨でも晴れでも啓司の後ろに乗ればこんなカラフルな世界が見れるんだって、啓司が教えてくれた―――。
「え、どこ向かってんの?」
「俺ん家!」
「え、なんで?」
「何でってイイっつったろ?俺ん家行くの…」
「え、言ってない!家行くなんて言ってない!何する気?」
「何ってそんなの決まってんじゃん!」
「やだ――!駅行ってよー!」
「無理だ諦めろ!」
「できないよ、あたし!」
「できるできる、直人も哲也もそうだったからユヅキも大丈夫だよ」
最後だけ優しく言うなんてズルイ!
悔しい、悔しい、悔しい!!!
―――悔しいけど、やっぱり啓司が好き。
*END*