SHORT U | ナノ

 ダージリン王子3

「姫…お手を拝借」


気取ってそう言うと、敬浩はスッとスマートに私の手を取った。

そしてもう一度パチンっと指を鳴らすと、黒いマントが敬浩の首元に装着されていて。


「いざ…」


ベランダで私を軽々お姫様抱っこをしたと思ったら、そのまま空に向かって一歩踏み出したんだ。


「キャアアアアアアアア―――!!!」


目を瞑って敬浩の首に思いっきり巻きつくけど、身体が風を感じていて。


「怖くねぇって俺がいるんだから。目開けて見てみろよ」


耳元で敬浩の甘い声がしてそっと目を開けた。


「うわ…嘘みたい…」


東京ってこんな綺麗だったんだ…。

足元に見える夜景に思わず溜息が漏れた。

普段見ることのない景色に釘付けで。


「本当に空、飛んでる私…」


小さく呟いたらクスって敬浩が微笑んだんだ。

こんな近さで敬浩にお姫様抱っこされるなんて地球がひっくり返っても有り得ないことで。

二人で空飛んでるなんてもっと有り得なくて。


「夢じゃないよね、これ…」

「現実だって」

「こんなの有り得るんだ…」

「一応な」

「ありがとう…ダージリン王子様…」


素直に口に出た言葉だった。

敬浩は何も言わずにただただ私の気がすむまで空を飛び続けてくれたんだ。





「満足したか?」

「うん、すごく幸せ…ありがとう」

「よかったよ」


ポンって頭を優しく撫でてくれて。

離れたくないな…―――

そう思うのが当然だと思えて。


「どうして人間に恋をしちゃいけないの?」


私の質問に敬浩の眉毛が下がった。


「住む世界が違うだろ、どう考えても。受け入れられる奴ばっかじゃないんだ、この世界は…」

「そう…なんだ」

「ああ。願いが叶ったら俺達の役目は終わりだ」


そう言うと敬浩は私の肩を両手で掴んだ。


「ユヅキ、最後に一つだけ頼みがある」


真剣なその表情に、私の心臓がドキンと音を立てた。


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