愛縁
「堀川くーん、兼さん知らなーい?」
「えー、兼さんならさっきまでここに…って、また内番さぼってどっか行っちゃってるし!」
堀川がふりかえったさきに、和泉守の姿など、あるわけもなく。
「うん、だからさがしてたんだけど…。その様子だと、今気づいた?」
「ごめんなさい、主さん…。もう、兼さんは…!」
「堀川くんは悪くないから、気にしないで」
「ありがとうございます! 主さんは、本当にやさしいなあ」
そんなことないよ、と苦笑いをかえす。
「さて、兼さんさがしてこなきゃ。近侍おねがいしようと思ったのに、いないんだもの」
「もし見かけたら、ぼくからもつたえておくね」
「ありがとう」
堀川とわかれ、心あたりをさがす。といっても、さほど広い本丸でもないのだが。
「いた! 兼さ…」
つくえにむかっていたのかと思ってちかよると、ほおづえをついて、眠っていたようだ。
(うわー、まつげ長い…うらやましい…)
あさぎ色の瞳も今はふせられ、まつげの長さを強調している。
(兼さんって、かっこいいっていうか、美人さんだよね。本人に言ったら、絶対おこられるけど)
なに言ってんだ、などとおこる和泉守が容易に想像ついて、苦笑う。
(意外にやわらかそうなほっぺた…)
ほんのいたずら心で、かるく和泉守のほおをつねってみる。
「なーにやってんだよ」
突然ひらかれたあさぎ色の瞳が、こちらをにらんでいた。
「…なっ、い、いつから起きてたの…!?」
「あんたがちかくにきたあたりかな」
「つ、つい出来心で…!」
「うん? いや、おこっちゃいねーぜ? オレの寝顔に見とれるあまり、ついいたずらしたくなっちまったんだろ?」
あるじがあきれた目で和泉守を見る。
「兼さんって、ナルシーなの?」
「…あんたなあ…」
かるくため息をついてから、なにか用があったのではないかと尋ね。
「あ、そうだ。近侍をおねがいしようと思ってたんだよ。いい?」
「かまわねーけど。どうせひましてたし」
「ひましてたって…内番は?」
「…うっ…」
文字どおり言葉につまってしまった和泉守に。
「まあ、近侍してくれるなら…内番さぼってたことは、おだんご1つで目をつぶってあげようかな」
「おう、あんたはやっぱり話しがわかるな! さすがはオレの主だぜ!」
「おだてても、明日のさぼりはゆるしませんからね」
「…へーい」
となりを歩く和泉守とは身長差があるので、ちょっとかかんでくれるように言うと。
「あんだよ?」
「いい子いい子」
頭をなでられ、和泉守が照れたようなあきれたような顔をする。
「…あんた、オレを短刀のガキんちょとおなじあつかいしてるだろ」
「頭なでるのはだめかー」
「…う、うれしくないわけじゃ、ねえよ…」
「…兼さん、その顔は反則…私まではずかしい…」
「だれのせいだよ!」
2人して紅い顔をしながら、だんご屋へとむかうのであった。