いつかその日まで
初めて人としての形を取って、姿を現した時、俺の目の前に立っていたのは、金髪碧眼の女審神者だった。
「あんたは誰だ?」
俺の問いにきょとんとして、答えようともしない審神者に弱っていると、すぐ傍にいた「こんのすけ」と名乗るキツネが代わりに答えた。
「こちらは異国から来た審神者様です。日の本の言葉をまだ解されません」
思わずカッとなって俺は怒鳴っていた。
「言葉も通じない相手を、何故、俺の主にした!?」
「あなたを選ばれたのは、審神者様御自身ですよ。同じ髪と瞳の色に親近感を持たれたようです」
同じ髪と瞳だと!? 写しの俺に対する嫌がらせか、それは!? 不快感がこみ上げた。
怒りと不快感で我を失いそうな俺の気も知らずに、にこにこと主が何か言う。
「審神者様があなたのお名前を尋ねておられます」
こんのすけに促されて、俺は渋々と名乗った。
「山姥切国広だ」
「?」
俺の名前は、彼女の国の言葉では発音しにくかったらしい。
「やま……ば……ひろ……?」
何度か言い直した後、主は笑顔で「ヒロ!」と俺を呼んだ。その笑顔と呼び名を聞いた瞬間、たまっていた怒りと不快感がするっと解けていくのが分かった。それは実に無邪気で明るい笑顔と、優しい発音の呼び名だったのだ。
「当面は私が通訳を務めさせていただきます」
こんのすけは言った。
「助かる」
思わず俺は吐息をついていた。この審神者を主とするには、相当苦労するだろうと思った。
だが、主は予想以上に勉強熱心だった。こんのすけや俺と熱心に会話を続け、言葉を学習し、審神者としてなすべき役目を理解して行った。
徐々に他の刀剣も集まり、百日もすると、こんのすけがいなくても、主と刀剣同士で日常の会話程度は通じるようになった。ただし、他にも国広を名乗る者がいると分かっても、「ヒロ」と呼ばれるのは俺だけだった。
自分と同じ髪と瞳を持つからと、俺を近侍に選んだ審神者。それは己の容姿を嫌っている俺にとって、嬉しくない事実だった。だが、不思議なほど、「ヒロ!」と笑顔で呼ばれるのは嫌ではなかった。その無邪気な笑顔と優しい発音に、ついほだされてしまうのだ。
初めて会った時から、言葉もろくに通じない中、俺は初期刀として、そして近侍として、主の隣にいつもいた。そして、互いに助け合いながら、敵と戦い、遠征に出かけ、時には傷ついて手入れされ、新しい刀剣を集め、刀装を行った。
常に隣にいて助け合い、支え合う、それが主と俺の関係になった。
「ヒロ、これからも傍にいてくださいね」
「俺で、いいのか?」
「はい」
嬉しそうに主はうなずく。
あんたの命令なら、それに従おう。俺の主。……いつか、戦いが終わって、俺がただの写しの刀に戻り、あんたが異国へ帰る日まで。