「へえー! ここが四葉アパートかー!」

 大きな声が響いた。大きな声で話す人はここの住人にいるが、聞いたことの無い声だし、発言からして「新しい入居者」だということが伺えた。
 何時の間にか正常さんは俺の前から消えていて、仕方なく俺は声のする方へ視線を遣った。
 すると視界一杯に広がる黒いモジャモジャの物体。

「っ、」
「お前かっこいいな! 友達になろう!」

 え、え、ええええ!? いきなり!? っていうか頭どうなってんのそれ! 前見えてんのか!?

「新しい入居者…だよな?」
「おう! 俺は古賀深! 深って呼んでくれ! なあなあなあ、友達になろうっ。名前なんていうんだ?」
「……っ、金子金嗣だ」

 執拗に友達になろうと迫ってくる黒いモジャモジャもとい深。もっさりしていて傷んだ髪は重そうだ。昔の漫画ででてくるような瓶底丸眼鏡。目が見えないほど厚いレンズで根暗やオタクを連想させられる。いや、それはオタクに失礼か。つか、明らか鬘だろこれ。そしてその瓶底眼鏡は何だ。逆に見えなくないか、それ以前にこんな眼鏡まだ売ってたのか! その店本当に売れてるのか? 潰れる直前なんじゃないのか!?
 それにしても近い近い近いちか――。顔近づけすぎだろ!

「金嗣だな、宜しく! あ、金嗣は不良なのか? もしかしてどっかのチームに入ってる?」
「ちょ、」

 まてええええええ。俺を幾つだと思ってんだこの餓鬼! 俺はもう二十歳越えてんだぞコノヤロー!
 しかも何、不良って何! 俺見た目は確かにちょっとはっちゃけているかもしれないけど、不良じゃない! 金髪とかピアスとか普通の範囲だろ、まだ。目付き悪いのは生まれ付きだし。売られた喧嘩は買うけど決して自分から売らない。これポリシー。

13/08/22