しかし、救われたからといって、金を貰ったというわけではない。確かに西冶さんにどうしてもと言われ少しは頂いたが、命の恩人にそんなに迷惑を掛けるわけにはいかないと断った。それに対して西冶さんは納得がいかなかったようだが、俺は長年辛いことも乗り切ってきて、根性があると自負している。粘っても折れない俺に溜息を吐いて、渋々西冶さんは金を仕舞った。
 ここに来たのは、勿論西冶さんのお陰である。家賃を払いきれないのが理由で追い出されて途方に暮れていた時、また助けて貰った。紹介して貰ったここに皆で引っ越してきたのは実は二週間前のことである。ただし、家賃は安い代わりに一部屋が少し狭い(贅沢はいえないが)。まだ完全に成長しきっていない弟たちは今広めの部屋を借りて皆で住んでいる。
 そして竜馬学園。これは「りょうま」ではなく「たつのおとしご」と読むらしい。俺としてはどっちでもいいと思うのだが、西冶さんのこだわりだろう。この竜馬学園は流石西冶さんだというか、かなり有名な進学校かつお坊ちゃま校(別名美形の巣窟とか)だ。俺には想像もつかない。一応ここからは割りと近いので遠くからは見たことがある。東京ドームより大きかった気がするのは絶対気のせいではない。偏差値はそんじょそこらの進学校とは比較できないほどらしいが、よく解らない。興味が無いということもあって、高校などは全然詳しくないのだ。

「――ということで、世話係を宜しくね」

 正常さんの言葉に意識が戻る。…なんか、今嫌な言葉が聞こえたんですけど。世話係とか、なんとか…。
 
「……もう一度言って貰えますかね?」
「は?」
「あ、いえ。ナンデモゴザイマセン、アハハハ」

 黒いオーラを撒き散らしながらにこりと微笑む正常さん。遠くから眺めればそれこそ目の保養だが近くで見ると迫力が半端ないの。目がまず笑ってない。全てを語っている。…この僕に何か文句でも? と。
 
「因みにいつ来るんすか?」
「今からだよ」

 今からかよ!