「覚えてろよクソ電波ああああ!」

失意体前屈になって床を叩いている俺の肩にぽんっと何かが乗った。その体制のまま首だけ振り返る。如何にも鬼畜眼鏡そうな男が眼鏡を光らせながら俺を見た。

「君、もうHRが始まっている時間だぞ。何を叫んでいるのかは知らないが、早く教室に行きなさい」
「え、…は、はい。すいません」

 俺は慌てて立ち上がって頭を下げた。

「それと、ここから眼鏡が降ってきたとの報告があった。心当たりはあるかね」

 ギクッとして顔が強ばる。幸い、先生は窓を見ていて、俺の動揺は悟られなかったようだ。

「し、知りません!」
「全く…危ないことをするやつもいるものだ」
「あの、因みにその眼鏡は…?」
「処分されたんじゃないか?」

 俺のマイエンジェルゥゥゥゥゥ!

「君」
「はい…?」
「早く行きなさい」
「は、はい!」

 マジで覚えてろよ夏木!



 あの後教室に入ったら、案の定注目されてしまった。サボリとは勿論言えないし、っていうかサボったわけじゃないから道に迷ったと仕方なく言ったけど、遅刻なんて優等生の俺としては芳しくない行為だ。周りから小さな笑い声が聞こえてきて、かなり恥ずかしかった。全てあいつの所為だ。眼鏡はなくなるし恥は掻くし最悪だ。
 しかし、サボりまくり、騒ぎまくりだった俺にとってはこの静かな空気はちょっと暇だ。夏木がサボりたがるのも分かる。しかし俺は優等生になると決めたんだ!

「じゃあ、残りの時間は自己紹介にしようか」

 ポッチャリ体系の先生がゆったりと言う。何だか癒される。王道ならホストだけど、やっぱ現実はこうだよな。
 一番右端の奴から立ち上がり、他愛もない自己紹介で座っていく。うーん、何て言おうかな。当たり障りのない言葉でいいよな、俺も。気合い入れすぎると女子に引かれるし。さ行の俺は暫時待ち、順番が来ると立ち上がった。ドクドクと小さく胸が弾む。

「蔦森晃です。よろし――」
「あきらー!」
「!?」
「せんこーからかなことゴリラ、とりかえしたぞ。よろこべ」

 俺の自己紹介中に勢いよくドアを開けて乱入してきたのは言うまでもなく夏木だった。グチャグチャに歪んでいる眼鏡を掲げて凄い誇らしげに胸を張っている。いや、かなことゴリラって何だよ! つーかそんなグチャグチャになったもの要らねえよ喜べねえよ!
 クラス中が不良の乱入と意味不明の言動に呆然としている。俺もどうしたらいいのか分からなくて固まってしまった。反応しない俺にイラついたのか大きく振りかぶり――。

「まさか…おい、やめ――…っい゙っでえええええ!」
「お、いきてた」
「お、いきてたじゃねえ! 勝手に殺すな! っていうか今殺されかけたわ!」
「やべえ、おれいまからひーろーになってくる」
「なつきくーん! お願いだから話を聞こうね!」