ポッキーの日ネタで直人×淳也。













「おい、淳也」
「あ?」

 本を読んでいた俺は、直人の不機嫌そうな声に顔を上げる。声と同様に顔も不機嫌面だった。

「んだよ」
「んだよじゃねえ。そろそろ俺に構えよ」
「…俺は本読みてえんだけど」
「いつでも読めるだろ。はい、没収」
「あっ、てめっ…!」

 すっと本が手元から消え、俺は直人を睨む。さきほどの不機嫌面とは打って変わって憎たらしい笑みを浮かべている。

「こんな本より、面白いことしようぜ」
「…面白いこと?」

 嫌な予感しかしないんだけど。ニヤニヤと笑う直人を胡乱な目で眺めていると、先程まで本を持っていた手に何かを握らされる。触れた手に少しだけどきっとしながら視線を落とすと、ポッキーの箱。なんだこれ。くれんのか? と視線を上げる。

「あ、さてはお前今日何日か分かってないだろ」
「…今日? 十一日だろ。それくらい分かってる」
「十一月十一日といえば、ポッキーの日だろ。つーことで、だ。やろうぜ」

 直人はにやあ、と口角を上げる。……やろうぜ、って、まさか。毎年やろうやろうとしつこかった日向を思い出し、顔を引き攣らせた。慌てて箱をどっかへやろうとした俺の手首を掴み、箱を取られ、引っ張られる。気がつけば腰に腕が回って身動きが取れなくなっていた。そして箱が開けられ、菓子が顔を出す。こいつ、手際よすぎだろ。密着してることで俺はこんなに緊張するってのに、こいつは普通だし。悔しい。

「淳也」

 口元にポッキーを寄せられる。開けろということだろう。…絶対あけねえ。むっと口を閉じていると、ふ、と鼻で笑われる。俺の抵抗が無駄だと笑われているのが腹立つ。でも口を開けなければポッキーゲームなんてできまい。と思っていると。

「んむっ!?」

 口にポッキーではなく、直人の唇を押し付けられた。突然のキスにぶわりと顔に熱が集まる。つんつん、と舌が唇をノックされるが、俺はぎゅっと口に力を入れる。その時だ。するりと耳の後ろを撫でられ、驚いた俺は目を見開き、思わず口を開けてしまった。

「ふっ……んん…! やめっ…!」

 にゅるりと口の中に舌が入ってくる。角度を変えて何度もキスをされ、頭がぼんやりとして、視界も少しぼやけている。漸く唇が離れ、脱力した俺は直人に身体を預ける。しかし、こいつ、俺の顎を持ち上げると、ずぼっと口にポッキーを突っ込んできた。

「ん!?」
「淳也…」

 反対側を直人が咥え、俺の後頭部を持つと、ポリポリ食べ進めてきた。折ってやりたかったが、直人の獲物を狙うような鋭い目が俺をずっと捕らえ、逸らすことも抵抗することもできず、ただ流れに身をまかせていた。もう少しで唇がくっつくというほど至近距離になって俺は漸く目を瞑る。来る、と思った時。ポキッという音が耳に入った。目を開けると、直人が顔を放してぼりぼり咀嚼していた。俺の口には短くなったポッキー。呆然としてその残りを食べると、直人が愉しそうに笑った。

「いやあ、いいな、これ。また来年もやるか」

 ニヤニヤとこっちを見る直人。キスをされると思って目を瞑った俺と、それが分かっててすんでのところでやめた直人。俺は怒りと羞恥で顔を赤くし、ポッキーの箱を直人に投げつけた。






fin.


15/11/11