下手なことを言って怒らせるなよと明は少々不安になる。直人は既に怒っているため、これ以上機嫌を損ねるような真似はしないでくれということだ。しかし空気の読めない男、紫炎はさらっと答える。

「中村くんのメールとのギャップが可愛いなあ、と」
「うわ」

 明は思わず声を漏らした。ここから逃げ出したい衝動に駆られて、腰を浮かせる。しかしぎろりと直人に睨まれ、即座に腰を下ろした。ここから出す気はないらしい。

「なんで、雨谷があいつの連絡先知ってんだよ」
「仲良しなんです!」
「はあ!?」

 直人が目を見開いた。一体どうして仲良くなっているのか。自分の知らないところで親しくなっていることにも怒りを感じたが、何より直人が眉間に深く皺を刻んだのが、連絡先を知っているということである。

「おい、空音」

 直人は凶悪な笑みを浮かべて明を見た。蛇に睨まれた蛙のように、明が固まった。

「中村を呼べ」

 何を隠そう、直人は淳也の連絡先を知らなかったのである。














 淳也が至急生徒会室へという連絡を受け、良く分からないまま生徒会室へ続くエレベーターまで行くと、疲れ切った表情の明が壁に背を付け立っていた。

「なんだよ、いきなり」
「いいから来い。いや頼むから来てくれ」

 淳也は悟った。直人関係で呼ばれたのだろうと。

「…なんか、悪いな」
「いや…」

 明は気にするなと首を振る。淳也のせいではないとは言い切ることができないが、二人の関係を繋いだことに明も関わっているので何も言えない。責めるべき人間は紫炎だ。明は心の中で紫炎を呪った。