『また来るから!』

 笑顔で俺に言った中村だったが、こいつ、それから一度も俺に会いに来なかった。

「すげえ傷ついたな」

 溜息を吐くと、中村は犬のようにしょんぼりとした顔で、悪い、と言った。まあ今はそこまで気にしてねえけど、こいつが素直で面白いから黙っておくとする。
 中村が来なくなったのは、戸叶が退院したからだ。看護師たちに聞いた。俺の存在はちっぽけなものだと悲しんだが、まあ当たり前だろう。一度しか会ったことがないんだからな。向こうから会いに来ないなら俺から会いに行けばいいと気づき、入退院を繰り返す生活をどうにかしようと、色々なことを試した。努力の結果が、今の俺だ。体を鍛えたり健康に気を遣ったりするようになったのは、中村に頼られる存在になりたかったからでもある。戸叶のように迷惑をかける存在ではない。
 全寮制に入れられたため、中々会いに行けなかった。高校を卒業したら絶対に行こうと思っていたら、向こうから会いに来たってわけだ。会いに来たと言うのは語弊があるが。記憶より落ち着いていていた中村の前をさりげなく通りすぎたことがあるが、こいつは全く気付かないどころか、迷惑そうな顔をしていた。俺に親衛隊の奴らが纏わりついていたからだろう。

「そうだろ?」

 改めて今確認を取れば、中村は思い出すように上を向いて、唸った。

「多分、そうだな。最初の頃は女みたいな奴らに違和感しかなかったし、うるせえし」
「俺もな」
「嘘くせえ…」

 なんでだよ、と笑えば、じっとりと睨みつけてきた。だからそういう顔はやめろって。