中村がVIPルームに訪れたのは数日後の話だった。本を読んでいると、突然部屋の外が騒がしくなったのだ。子どもの声が聞こえたので、俺は気になってベッドから降り、ドアを開けた。SPに取り押さえられた子どもが中村である。隣には無理矢理連れて来られたのか、泣きそうになっている戸叶の姿。見ることしかできなかった二人が目の前にいることに動揺し、アホみたいな顔を晒して突っ立っていた俺だったが、我に返り、SPに解放しろと命じた。今を逃すともう会えない、と思った。
 二人を病室に入らせ、俺はベッドに戻る。何を話していいか分からず黙っていると、中村がべらべらと喋りだした。見た目通り馬鹿だと思ったが笑顔を浮かべ話すこと、家のことなど全く関係なく、俺に興味を持って質問してくることが嬉しかった。初めて欲しい、と感じた。
 そこまで話すと、中村は眉を顰めて唸った。

「…あ? 俺すぐに帰らなかったか?」
「一時間はいたぞ。まあ、戸叶が帰りたがって、あっさり帰りやがったがな」

 鼻で笑うと、中村は気まずげに顔を逸らした。
 戸叶は中村と対照的に、つまらそうに、また、嫉妬を含んだ顔で俺を見ていた。中村の目には俺しか入っていないということに喜んでいた俺だが、戸叶が帰りたいと言うと、俺がどれだけ引き留めようとしても駄目だった。