「…戸叶のこと、気にしてんのかよ」

 否定しようと思ったが、したとして、この男は納得しないだろう。

「お前は……変わらねえな」
「え?」

 俺のことを前から知っているような口ぶりに眉を顰める。「分かっていたとはいえ、ムカつくなその反応」むすっとした顔で俺の頭に拳を落とす。クソ会長は呆れたように溜息を吐いて、ベッドに腰掛ける。

「痛えな」
「痛くしてんだよ」

 そうは言うが、結構手加減をしたんだろう。本気で殴られていたらたんこぶができていたかもしれない。思わず手が出そうになったが、何だか俺が悪いようなので、文句だけにしておいた。

「俺とお前はな、会ったことがあんだよ、昔」
「……、まじか」
「まじだ」

 「つーか反応薄いな」俺の反応が気に食わなかったらしいクソ会長が舌打ちする。いや、反応薄いっつーか、反応が間に合わなかっただけだ。

「…いつだ?」

 金持ちのこいつと、俺が会う機会なんてない。この性格に難ありなところも、顔立ちも記憶に残っていないのはなんでだ。
 クソ会長は暫し考えるような素振りをして、にやりと笑う。

「それは付き合った時に教えてやるよ」
「はあ!?」

 不満を浮かべた顔でクソ会長を睨む。

「俺と付き合わねえっつーんなら、別に気にする必要ねえだろ。忘れたらいい話だ」


 鼻で笑うと、クソ会長は真面目な顔をして俺を見つめる。

「――中村。お前が付き合いたくねえっつうなら、付き合わねえよ。でも覚えておけ。俺がテメェのこと好きだってな」

 最後にぐしゃりと髪を撫でると、立ち上がってドアの方へ歩いて行く。

「……あんま、自分責めんなよ」

 じゃあな、と言い残して、奴は去って行った。