(side:大樹)




 優治先輩が家に来た。中に入られると困るので俺は慌てた。しかし優治先輩の用事は俺ではなく郁人だったようで、郁人はニヤニヤしながら優治先輩に付いて行った。俺はほっとしながら、郁人に何の用だったんだろうと気になった。
 って、気にしている暇なんてない。俺は早くこれを完成させなければ。目の前のチョコをどう配置するか腕を組んで考える。っていってもシンプルなチョコだからどこにどう置いてもあんまり変わらないけど。でもできるかぎりいいものに仕上げたい。よし、と呟いてチョコを一つ一つ配置していった。
 まさか、俺がバレンタインのチョコレートを作るなんてな。母さんは不思議がっていたけど、友チョコだとかお世話になったとか色々言ったら一応納得してくれた。
 勿論相手は優治先輩だ。俺と違ってきっとたくさんチョコをもらうから、俺のチョコなんて要らないかもしれないけど、気持ちだけでも受け取って欲しい。袋で包んで溶けないように涼しいところに置いて、優治先輩たちが戻ってくるのを待とう。
 十数分くらい経った後、ガチャリとドアが開く音がした。びくりと過剰に反応してしまう。しかし母さんの視線はドアの方にあったので不審がられずにすんだ。

「ただいまー」

 笑顔の郁人の後ろから優治先輩が顔を出す。そして母さんに向かってきちんとした挨拶をする。そして俺に視線を遣って、言った。「ちょっと、いいか」

「あ、はい」

 ドキドキと心臓が煩く鳴る。緊張してきた。郁人をちらりと見ると、親指を立ててにっと笑われる。郁人に勇気づけられた俺は、そっとチョコを手に取って、俺の部屋に向かった。












「大樹」
「は、はい」

 部屋に入った途端、すっと差し出される何か。俺はそれを見て目を見開いた。チョコだ。しかも、なんかテレビで見たことがあるやつ。優治先輩は照れくさそうに頬を掻いて笑う。

「まあ、その、なんだ。大樹にはいろいろ迷惑かけたしな」
「優治先輩…」

 「ありがとうございます」俺は笑って、それを両手で受け取った。そして、今度は俺のチョコを優治先輩に差し出す。優治先輩は目を丸くしてそれを見た。

「俺も、普段お世話になっているお礼です。…えーと、あの、不味いかもしれませんが…」

 優治先輩は俺の手元を凝視したまま何も言わない。不安になって、自然と早口になった。

「あ、ゆ、優治先輩たくさんもらってますよね。俺のなんか要らな――」
「要らねえわけねえだろ!」

 慌てて優治先輩が俺のチョコを奪う。そして、チョコを見て笑った。あんまり嬉しそうに笑うから、顔に熱が集まった。
 優治先輩は何を思ったのか、俺を抱きしめてきた。「優治先輩!?」先輩の名を呼ぶ俺の声は裏返ってしまった。

「すげえ嬉しいよ。ありがとな」
「い、いえ…」

 俺の心臓は再び煩く鳴りだす。この音が優治先輩に聴かれていないか心配だ。でも、離れたくないな、と思った。
 チョコを作って良かった。俺は目を閉じて、へへ、と笑った。








fin.

Happy Valentine!

ということで、バレンタインデーでしたね。
今年はこの二人を書いてみました!
ちなみに土曜日なので彼らも学校は休みです。