NoN/優治×大樹










(side:優治)

 二月十四日。俺はカレンダーを見て、ああ今日はバレンタインデーかと欠伸をしながらカレンダーから視線を外す。そして二度見した。脳裏に浮かぶ大樹の顔。今までバレンタインデーなんて、面倒な行事でしかなかった。何処の誰からかも分からなかったり様々な令嬢だったり、とにかくチョコを大量に貰う日だ。しかし今年は違う。好きな奴がいるからだろう。しかし、大樹がチョコを用意するとは思えない。男子校ならまた話は違ってくるのかもしれないが、学校は普通に共学で、大樹は受け取る側の人間だ。しかも、大樹に渡す女が少なくとも一人はいる。瞳という大樹にべったりな女だ。もう一人の女も本命かは分からないが、やる可能性は高い。…いや、大樹は他に貰ってもおかしくない。
 大樹から貰えないというならこっちからやるしかない。そうと決まれば早速チョコを用意しねえと。
 俺はふむ、と腕を組む。どういうチョコにするかが問題だ。大樹のことだから高価なチョコは嫌がるだろう。こんな高い物貰えないっつってな。高いものじゃねえものをやればいいという話だが、俺には大樹が高いと思う金額が分からない。眉間に皺を寄せてどうすればいいかを考える。そして閃いた。あの男に協力してもらえばいいのだ。俺はすぐさま出かける用意をして、家を後にした。












「はあ、それで俺のところに来たってことですね」
「そうだ」

 俺が向かった先は大樹の家。大樹に弟を呼んでもらい、話を聞いてもらった。家で話をして聞かれるといけないので、車の中で話した。最初こそ高級車にビビっていたが、数分もすればいつも通りだった。こいつ、将来大物になるんじゃねえか。

「まあ、確かに高級チョコは微妙ですね。でもそれ以外なら普通に喜ぶと思いますけど…」
「それ以外が分からねえから困ってんだよ」
「ああ、そっか。そうでしたね」

 ううんと悩みだす。そして、あ、と声を漏らして携帯を扱いだす。それをじっと見ながら待っていると、画面を俺の方に向けた。

「これとかどうですか。この前バレンタインの特集観てた時に旨そうって言ってたし、そこまで高くないんで」
「……安すぎねえか」

 画面には四角い箱に四つチョコレートが入っている画像が映し出されている。そしてその下に値段。そのあまりの安さに眉を顰めると、郁人は苦笑した。

「俺たちからしたらまあまあですよこれ。普段食べてるチョコはもっと安いです」
「…へえ」

 まあ、郁人が言うならそうなんだろう。時間もねえし、これにするか。喜ぶ大樹の姿を想像して、俺は顔を緩めた。