「淳ちゃん…なんで、何も言ってくれないの」
「日向…」

 俺はちらりとクソ会長を見遣る。目が合う。視線の意味を理解したらしい奴は、肩を竦める。「中村」

「俺は、お前のこと信じてる」

 真剣な表情で見つめられ、心臓が跳ねる。俯く俺の頭をぐしゃりと撫でると、無言で離れて行った。ドアの開閉の音も聞こえ、ここから去ったのだと分かった。
 一瞬で静寂が訪れる。日向は何も言わない。俺は意を決して口を開いた。

「日向…」

 反応がない。顔を上げて日向の姿を確認する。無表情で、じっと床を見つめていた。

「俺…」
「やだ、聞きたくない」
「俺は、あいつが――」
「聞きたくない!」

 日向の悲痛な叫びが部屋に響いた。

「聞いてくれ、日向」
「やだってば!」
「聞け!」

 埒が明かず叫ぶと、耳を塞ぐ日向の体がびくりと震えた。

「俺は、お前のことが好きだけど、あいつに対する気持ちとは違う。だから、付き合うことはできない」

 日向の顔がぐしゃりと歪む。ああ、泣きそうだ。俺は目を伏せた。

「俺と、別れてくれ」









 日向が帰った。芳名を呼んで、日向を連れて帰ってもらったのだ。俺は何もする気になれなくて、ベッドに寝転がる。
 芳名の全てを悟った顔、日向の泣き顔を思い出す。俺は自己嫌悪に顔を歪める。日向を傷つけてしまった。自分がどうしても許せなかった。
 ――これで、本当に良かったんだろうか。
 俺は、頭を抱えて丸くなり、静かに泣いた。