「…淳ちゃん」

 今にも消えそうな声に、はっとして顔を上げる。泣きそうに歪められた顔が目に入り、ぐっと胸が締め付けられた。横でクソ会長が溜息を吐く。

「お前なあ…」

 呆れた表情を浮かべている。フラフラしてるんじゃねえよという目で見られた。俺だって、好きでフラフラしてるわけじゃない。クソ会長のことは好きだが、日向だって大切なんだ。

「…日向、何か話があって来たんじゃねえのか?」

 日向はぱちりと一度瞬きして、へらっと笑った。とは言っても、いつものように自然なものではなかったが。

「うん、まあ…ちょっとね」
「? なんだよ」
「んー、また今度でいいや。そういえば淳ちゃん、幹ちゃんと何もなかったよねえ?」

 幹太? 俺は突然出てきた友人の名に目を丸くする。…何もなかったよね、って。

「あるわけねえだろ…」
「…ふーん、その様子だと、言ってないんだ」
「は? 何を?」

 日向は首を振って、口角を上げた。

「幹ちゃんはヘタレだなーって」

 確かにあいつは結構なヘタレだけど、それが何なんだ? 俺は眉を顰める。日向は楽しそうに笑うだけで、何も言わない。すっかりいつもの調子に戻ってへらへら笑う日向は、俺に近づいた。そしてクソ会長を睨み上げる。

「いつまで淳ちゃんの部屋にいるつもり?」
「俺が帰りてえと思うまで」

 ……俺としてはどっちも帰って欲しいわけだが。溜息を吐いてベッドに腰掛けると、二人が一斉にこっちを向いた。