さあっと血が引いて行く。まずい。

「へえ…来てんのか」

 クソ会長は愉快そうに言って、俺を促す。「開けろよ」

「…何もしねえだろうな」
「あっちが何もしてこなかったらな」
「怪我でもさせたらぶっ殺すからな」

 ぎろりと睨むと、クソ会長は肩を竦めた。「おお怖い怖い」俺は小さく舌打ちして、ドアをそっと開ける。瞬間、ぬっと出てきた手が俺を捕らえようとして伸びて来る。しかしその手は空を切った。クソ会長が俺の襟首を引っ張ったからである。幸いぐえ、というような間抜けな声は出なかったが、首が締まって苦しい。ぱ、とすぐに放され、空気が入り込んできた。文句を言うために振り向こうとして、止める。ブスっとした日向と目が合った。

「淳ちゃん」
「ひな――」

 名前を呼び終える前に、クソ会長によって押しのけられる。クソ会長と日向が向かい合ってしまった。ピリピリとした空気になって、呼吸をするのも躊躇われる。

「よう、戸叶日向。別れ話でもしに来たか?」
「はあ? 何言ってんの? 俺は可愛い恋人に会いに来ただけだけど」

 いや、お前も何言ってんだ日向。俺のどこが可愛い恋人だ。
 クソ会長は不敵な笑みを湛えて言った。「その可愛い恋人はお前と別れたがってるがな」可愛い恋人って、お前馬鹿にしてるだろ。それに、余計なことを言ってくれたな。
 日向がぎゅっと顔を歪めて、俺を見る。瞳が揺れた。

「……別れたいだなんて、そんなこと、ないよね? 淳ちゃん」
「っそれは」

 言葉が詰まる。何を言っても無駄なような気がして、俺は口を閉じた。でも、それが日向を傷つけてしまったようだ。その顔を見て、ずきりと胸が痛む。
 クソ会長はショックを受ける日向を見て鼻で笑った。

「分かったら、さっさと身を引くんだな」

 面倒そうに言うから腹が立ったが、俺が言う資格はない。目を逸らして、ぐっと耐えた。