「お――」

 ブー、ブーと手の中で震える。また戸叶かと思って視線を落とす。しかし、見たことのない名前だった。翔太なんて名前の奴は、中学の時にいなかった…はずだ。ということは、高校のダチの可能性が高い。

「あ…」

 淳也は目を見開いて、次いでしまったと言うような顔をする。数回震えた携帯は、振動を止めた。もしかして、俺はこの翔太という奴が、淳也の好きな野郎ではないか…? 俺はじっと翔太と書かれた画面を見つめる。

「幹太、携帯返せ」
「あ、お、おう…」

 俺は携帯を淳也の掌に置く。携帯を受け取った淳也は無言で操作し始めた。表情からは何も読み取れない。「翔太」が気になってそわそわしている俺を見て、淳也が苦笑した。

「同室の奴だよ。泊まるってこと伝え忘れてたから何時ごろに帰ってくるんだっつーメール」
「同室…」

 何だ、そうか。俺はほっとして息を吐く。携帯から視線を上げた淳也は、小さく首を傾げる。

「それで、さっき何を言いかけたんだ?」
「あ? さっき?」

 さっき……。あ。
 告白しようとしたところでメールが届いて、言えなかったのを思い出した。ついさっきのことなのに忘れていた。

「あー、えーと、だなあ…」
「ああ」
「あのー、その…」
「何だよ」

 淳也が訝しげな顔でこっちを見つめる。俺はぱくぱくと口を開いたり閉じたりしていた。

「……や、何でもねえ」

 俺は結局、首を振って想いを仕舞った。今告白しても振られるのは明白だし、淳也を困らせるし、何よりぎくしゃくしてしまう。もうちょっと言うのは先にしよう。