「あらあら、淳ちゃん! 久しぶりねえ!」

 おばさんが俺を見て満面の笑みになった。俺は頭を下げる。「お久しぶりです」

「淳ちゃん全然来なくなっちゃったから遂に幹太に愛想尽かしたんだと思ったわ」
「おいババア! なにふざけたこと言ってんだ!」
「さあさ、上がってちょうだい」
「おい!」

 おばさんは幹太の声を華麗にスルーして、俺に輝かしい笑みを向ける。しょんぼりとした幹太の頭をぽんぽんと叩いて、幹太の家に上がった。








 おばさんに解放されたのは二時間後だった。

「あのババア…」

 忌々しげに呟く幹太に苦笑し、出されたオレンジジュースを飲む。ぐるりと幹太の部屋を見回し、あれ、と思う。コルクボードに写真が貼り付けてあった。俺は立ち上がって、コルクボードに近づく。

「懐かしいな、これ」
「え、あ」

 修学旅行の時に撮った写真だ。じっと見つめていると、隣で幹太が、あ、だとか、う、だとか良く分からないことを言っている。俺は写真を一通り見て、首を傾げる。幹太が映っている写真より、俺が映っているものが多い。俺単体で映っているものなんか、あほみたいな顔をしている。視線はカメラの方を向いていないから、隠し撮りだ。ちらりと幹太を見ると、ぎくりと顔を強張らせて、顔を逸らした。

「お前、これ」
「いや、その」
「こんなもん飾っとくなよ。恥ずかしいだろ」
「あ?」

 俺の言葉に目を丸くした幹太は、深い溜息を吐いた。そしてぼそりと呟く。

「分かった分かった。外しとくわ。後で」
「今外せよ。つーかこれ没収」
「は!? 待て止めろ!」

 何故か慌てて俺の腕を掴んでなだめるように言った。「ちゃ、ちゃんと外すから。だからこれは俺が持っとく。いいだろ、な? な!?」必死の形相に、俺は思わず頷いてしまった。どんだけこの写真気に入ってんだよ。コルクボードから写真を外した幹太は、しっかり写真を握って、俺をちらちら見ながら引き出しに仕舞った。それにしても、俺単体の写真をそんなに大事そうに扱われると大分気持ち悪いな。