「…もしもし」 『何だ、今の電話。あいつが勝手に言ってるだけじゃねえよな?』 「ああ、まあ…」 そうか。空音はそう呟いた。向かいの幹太がじっとこっちを見ている。 『分かった。じゃあ、手続しとくから』 「悪い、頼んだ」 『おう』 耳から携帯を離し、テーブルの上に置く。どうだどうだとそわそわしている幹太に笑いかけた。 「お邪魔させてもらうわ」 「おっしゃ!」 幹太が小さくガッツポーズする。これくらいのことで喜びすぎだろと思うが、まあ、悪い気はしない。 「じゃ、もう家でごろごろするか?」 「そうだな。迷惑じゃねえなら」 「迷惑なわけねーだろ! ババアなんか、お前が来ないっつって寂しがってたぜ」 幹太は勢いよく立ち上がり、早くしろと俺を急かす。そんなに急がなくていいだろと苦笑しながら、俺も立ち上がった。 幹太の家は、店から十分ほど歩いたところに位置している。何だかすごく久しぶりに来た気がする。懐かしさを感じて家を眺めていたら、痺れを切らした幹太が俺の腕を掴み引っ張った。 「お前、何をそんなに急いでんだ」 「い、急いでねえよ別に!」 幹太は目をきょろきょろと動かした。どう見ても別にという顔をしていない。じっと見つめると、幹太は舌打ちをして、俺から視線を外す。 「あいつがいないことは少ないから、ちょっとの時間でも大切にしてえんだよ」 ぶす、と不貞腐れた顔で呟く幹太に苦笑いを浮かべる。幹太は日向が嫌いなわけではないが、俺と日向が一緒にいると、俺は日向を優先し、日向は俺にべったりだから居心地が悪いんだろう。 → |